共同経営者トラブルで役員個人が責任を問われるケース
この記事のポイント
共同創業者間の経営方針の対立や事業承継をきっかけに、役員個人の責任が問われるケースが増えています。株式持分の問題や訴訟に発展するパターンについてD&O保険の専門家が解説します
共同経営は事業を成長させる上で大きな力になりますが、関係が悪化した場合には深刻なリスクにもなります。共同創業者間のトラブルは、中小企業において役員個人が訴えられる最も多いパターンの一つです。
共同経営者間のトラブルでは、少数株主である共同創業者が株主代表訴訟を起こし、代表取締役の経営判断を問題視するケースが増えています
この記事では、D&O保険の専門家への取材をもとに、共同経営者トラブルで役員個人が責任を問われるパターンと、事前の備え方について解説します。

共同経営で起きるトラブルの典型パターン
共同創業者間のトラブルは、多くの場合、以下のような経緯をたどります。
創業期は共同創業者同士の信頼関係で事業を回しています。役割分担もなんとなく決まっており、お互いの判断を尊重し合っています。
しかし事業が成長するにつれて、経営方針の違いが少しずつ表面化します。たとえば「積極的に投資して拡大すべき」と考える創業者と「堅実に利益を確保すべき」と考える創業者の間で、方向性の対立が起きるのです。非上場企業における役員訴訟の全体像については非上場企業でも役員が個人で訴えられるリスクで解説しています。
こうした対立が深刻化すると、少数株主である共同創業者が「代表取締役の経営判断のせいで会社に損害が生じた」として、株主代表訴訟を起こすケースがあります。
経営方針の対立が訴訟に発展するケース
経営方針の対立から訴訟に至るケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。
新規事業投資の失敗
代表取締役が独断で進めた新規事業投資が大きな損失を出した場合、「十分な調査もせずに多額の投資を行った」として責任を追及されることがあります。
特に問題になるのは、取締役会で十分な議論を経ずに意思決定された場合です。共同創業者が「自分は反対していたのに、代表が独断で進めた」と主張できる状況では、訴訟に発展するリスクが高まります。
M&Aの失敗
会社の買収や合併が失敗した場合も、役員個人の責任が問われる可能性があります。特に買収先の調査(デューデリジェンス)が不十分だったために損失が発生したケースでは、「入念な下調べをしなかった」として責任を追及されます。
取引先の選定ミス
大口取引先の信用調査を怠り、結果として取引先が倒産して多額の債権が回収不能になった場合にも、「取引判断が甘かった」として訴えられることがあります。

経営判断が失敗したら訴えられるのですか?
株式持分の構造が生むリスク
共同経営のリスクを考える上で、株式の持分構造は極めて重要です。
| 持分構造 | リスク |
|---|---|
| 70%対30% | 少数株主が株主代表訴訟を起こす可能性 |
| 50%対50% | 意思決定の膠着と相互の責任追及 |
| 90%対10% | リスクは低いが10%株主の権利行使は可能 |
特にリスクが高いのが50%ずつの持ち合いです。どちらも過半数を持っていないため経営の意思決定が膠着しやすく、お互いが相手の判断責任を追及する訴訟に発展するおそれがあります。
また、70%対30%のような構造でも、少数株主は株主代表訴訟を起こす権利を持っています。「自分の意見が経営に反映されない」という不満が蓄積すると、過去の経営判断を遡って問題視するケースが出てきます。実際に役員が訴えられた場合の対応フローについては役員が個人で訴えられた実例と対策をご覧ください。
事業承継が引き金になるパターン
共同経営者トラブルは、事業承継のタイミングで一気に表面化することがあります。
株式の評価額をめぐる対立
事業承継に伴い、一方の創業者が株式を売却する場合、株式の評価額をめぐって対立が生じることがあります。「会社の価値をもっと高くできたはずなのに、代表の経営判断のせいで株式の価値が下がった」として、退任する側が損害賠償を求めるケースです。
後継者選定をめぐる対立
後継者を誰にするかという問題も、訴訟の引き金になりえます。一方の創業者が自分の子息を後継者にしたいと考え、もう一方が反対した場合、それまで蓄積していた不満が噴出することがあります。
退任条件をめぐる対立
共同創業者の一方が退任する際の退職金や競業避止義務の条件をめぐって対立し、それが訴訟に発展するケースもあります。なお、IPOを控えた企業における事業承継リスクについてはIPO準備企業のD&O保険相談が増加する理由でも触れています。

事業承継の前にD&O保険に入っておいた方がいいですか?
共同経営者トラブルを予防するために
訴訟リスクを軽減するためには、日頃から以下の対策を講じておくことが重要です。
株主間契約の締結
共同経営をする場合は、あらかじめ株主間契約を締結しておくことが有効です。経営方針の意思決定プロセス、デッドロック(意見の対立で意思決定ができなくなること)時の解消方法、株式の売却条件などを事前に取り決めておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
取締役会の議事録を確実に残す
経営判断のプロセスを記録として残すことは、訴訟に備える上で最も重要な対策です。取締役会でどのような議論がなされたのか、専門家は関与していたのか、判断の根拠は何だったのかを議事録に記録しましょう。
定期的なコミュニケーション
共同経営者間の意思疎通が不足すると、小さな不満が蓄積して大きなトラブルに発展します。定期的に経営方針について話し合い、お互いの考えを確認する場を設けることが大切です。経営者が身を守るための総合的な対策については中小企業の経営者が自分の身を守る方法も参考にしてください。
D&O保険で経済的リスクに備える
共同経営者トラブルが訴訟に発展した場合、D&O保険は大きな支えになります。一般的なD&O保険は株主代表訴訟による損害賠償金と弁護士費用の両方を補償対象としており、役員個人の経済的リスクの軽減に役立ちます。
非上場の中小企業であれば年間数十万円程度から加入できるケースが多く、補償額は1億円から5億円が一般的です。※保険料・補償額は企業規模や条件により異なります。賠償金と弁護士費用がセットで補償されるパッケージ型が主流のため、わかりやすい保険設計になっています。弁護士費用や賠償額の具体的な相場については役員が訴えられたときの弁護士費用と賠償額の相場で詳しく解説しています。
この記事のまとめ
- 共同経営者間のトラブルは、中小企業で役員個人が訴えられる最も身近なリスクの一つ
- 経営方針の対立、M&Aの失敗、取引先の選定ミスなどが訴訟の引き金になる
- 事業承継のタイミングはトラブルが表面化しやすく、株式評価額や後継者選定をめぐる対立が起きやすい
- 意思決定プロセスの記録を残すことと、D&O保険への加入が最も有効な備えになる
共同経営者から役員として訴えられるケースはありますか?
あります。共同創業者が少数株主として株主代表訴訟を起こし、代表取締役の経営判断の責任を追及するケースが実際にあります。経営方針の対立や報酬への不満がきっかけになることが多いです。
事業承継のタイミングで訴訟リスクが高まるのはなぜですか?
事業承継では株式の移動が伴い、それまで表面化していなかった経営判断への不満が噴出するためです。後継者や他の株主から過去の意思決定について責任を追及されるケースがあります。
共同経営者トラブルに備えてD&O保険は有効ですか?
有効です。D&O保険は株主代表訴訟による損害賠償金や弁護士費用を補償します。共同経営者からの訴訟も補償の対象になるため、関係が良好なうちに加入しておくことが重要です。
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