役員が訴えられたときの弁護士費用と賠償額の相場
この記事のポイント
役員が個人で訴えられた場合、弁護士費用だけで数百万円から数千万円、賠償金は数千万円から数億円に上ることがあります。個人資産では対応困難な金額になる理由と備え方を専門家が解説します
役員が個人として訴えられた場合、最も大きな不安は「いくらかかるのか」という経済的な問題です。弁護士費用だけで数百万円から数千万円、損害賠償金は数千万円から数億円に上ることも珍しくありません。
役員訴訟の費用は個人の資産だけでは対応が難しいケースも少なくありません。勝訴した場合でも弁護士費用は基本的に自己負担となるため、訴えられた時点で大きな経済的損失が発生します
この記事では、D&O保険の専門家への取材をもとに、役員が訴えられた場合に実際にかかる費用の相場と、その備え方について解説します。

役員訴訟でかかる費用の全体像
役員が個人として訴えられた場合に発生する費用は、大きく分けて2つあります。弁護士費用を中心とする「争訟費用」と、敗訴した場合に支払う「損害賠償金」です。
| 費用の種類 | 概要 | 目安金額 |
|---|---|---|
| 争訟費用 | 弁護士報酬、訴訟費用など | 数百万円から数千万円 |
| 損害賠償金 | 敗訴時に支払う賠償金 | 数百万円から数億円 |
重要なのは、争訟費用は訴訟の勝敗にかかわらず発生するという点です。つまり、最終的に勝訴したとしても、弁護士に支払う報酬や訴訟にかかる費用は自分で負担しなければなりません。
弁護士費用の相場
役員訴訟における弁護士費用は、訴訟の規模や争点の複雑さ、訴訟期間の長さによって大きく異なります。
一般的な弁護士費用の内訳は以下の通りです。
- 着手金:訴訟を受任した時点で支払う費用
- 報酬金:訴訟の結果に応じて支払う成功報酬
- 日当・実費:裁判所への出廷費用や交通費、書類作成費用
役員訴訟では、争点が複雑で訴訟期間が長期化する傾向があります。1年以上にわたって訴訟が続くケースも珍しくなく、その間ずっと弁護士費用が積み重なっていきます。

訴えられたら弁護士費用は勝っても返ってこないのですか?
日本の訴訟制度では、勝訴しても弁護士費用の全額を相手方に請求できるわけではありません。一部の費用を相手方に負担させることは可能ですが、実際にかかった弁護士費用の全額をカバーできることはほぼありません。
そのため、たとえ無実であっても、訴えられただけで数百万円以上の弁護士費用が発生してしまうのです。実際に役員が訴えられるケースのパターンについては役員が個人で訴えられた実例と対策で詳しく解説しています。
損害賠償金の相場
損害賠償金の金額は、訴訟の種類や損害の大きさによって大きく異なります。
ハラスメント訴訟の場合
ハラスメント訴訟では、数百万円程度の賠償額になることが多いです。セクハラ訴訟の場合、被害の程度にもよりますが、数百万円程度が一般的な水準です。
ただし、会社と役員個人の両方が訴えられるケースでは、それぞれに対して賠償命令が出る可能性があります。
経営判断の失敗に関する訴訟の場合
経営判断の失敗で役員個人が訴えられた場合、損害の規模に応じて数千万円から数億円の賠償金が請求されることがあります。
たとえば、M&Aの失敗で数億円の損失が出た場合、その損失額に相当する賠償金が役員個人に請求されるケースがあります。共同経営者間のトラブルで発生する賠償リスクについては共同経営者トラブルで役員個人が責任を問われるケースで解説しています。
株主代表訴訟の場合
株主代表訴訟では、会社が被った損害の全額を役員個人に対して請求されるのが原則です。上場企業の場合は数十億円規模になることもありますが、非上場の中小企業でも数千万円から数億円の請求になることがあります。
個人資産で対応できるレベルなのか
弁護士費用と賠償金を合計すると、総額で数千万円から数億円に上ることがあります。この金額を個人の資産から捻出できるかどうかを冷静に考える必要があります。
たとえば以下のようなシミュレーションを考えてみましょう。
- 弁護士費用:800万円
- 損害賠償金:5,000万円
- 合計:5,800万円
これは中小企業の役員訴訟でも発生しうる金額の一例です。※実際の金額は訴訟の内容や規模により大きく異なります。個人の資産だけでは対応が難しいケースもあるため、事前の備えが重要です。非上場企業でも役員が訴えられるリスクについては非上場企業でも役員が個人で訴えられるリスクをご覧ください。

そもそも役員個人にそこまでの責任があるのですか?
D&O保険の補償額の決め方
D&O保険の補償額は、会社の規模や想定されるリスクの大きさに応じて設定します。
非上場の中小企業では1億円から5億円の補償額が一般的です。ただし、1回の損失で数億円の損害が出る可能性がある企業の場合は、それをしっかりカバーできる金額に設定する必要があります。
D&O保険の補償内容は基本的にパッケージ化されており、損害賠償金と弁護士費用(防御費用)がセットで提供されるのが一般的です。追加の特約で補償範囲を広げることも可能です。経営者の具体的な備え方については中小企業の経営者が自分の身を守る方法も参考にしてください。
D&O保険の保険料の目安
非上場の中小企業であれば、D&O保険の保険料は年間数十万円程度から加入できます。
保険料は以下の要素によって変動します。
- 企業の規模(売上高、総資産など)
- 業種
- 役員の人数
- 補償額
- 過去の訴訟歴
年間数十万円の保険料で、数千万円から数億円の賠償リスクに備えられると考えれば、費用対効果の面で検討する価値があると言えるでしょう。※保険料は企業規模や条件により異なります。
リスクを避けるのではなく適切に管理する
経営者にとって、判断するのは仕事そのものです。しかし、判断を間違えたら個人で賠償するリスクがあるという現実は、経営の妨げになりかねません。
この点について、D&O保険の専門家は次のように指摘しています。
攻めた経営判断ができるかどうかは、リスクに対する備えがあるかどうかで大きく変わります。D&O保険は、経営者が本来の意思決定に集中するための備えの一つです。IPO企業における補償額の詳しい決め方についてはIPO企業のD&O保険の補償額と範囲の決め方をご覧ください。
この記事のまとめ
- 役員が訴えられた場合、弁護士費用だけで数百万円から数千万円、賠償金は数千万円から数億円に上ることがある
- 勝訴しても弁護士費用は基本的に自己負担であり、訴えられた時点で相応の出費が見込まれる
- D&O保険は年間数十万円程度の保険料で、損害賠償金と弁護士費用の両方をカバーできる
- リスクを避けるのではなく適切に管理し、本来の意思決定に集中できる環境を整えることが大切
役員が訴えられたときの弁護士費用はどのくらいですか?
弁護士費用は訴訟の規模や争点の複雑さによりますが、数百万円から数千万円程度かかることが一般的です。訴訟が長期化すると費用はさらに膨らみます。
役員訴訟の賠償額はどのくらいになりますか?
ハラスメント訴訟では数百万円程度、経営判断の失敗や株主代表訴訟では数千万円から数億円に上ることがあります。会社の規模や損害の大きさによって金額は大きく異なります。
訴えられたら弁護士費用は勝っても自己負担ですか?
日本の訴訟制度では、勝訴しても弁護士費用の全額を相手方に請求できるわけではありません。D&O保険に加入していれば、勝敗にかかわらず弁護士費用が補償されます。
関連記事
中小企業の経営者が自分の身を守る方法
中小企業の経営者が「自分の身を守る」ためにまず知っておくべきことをD&O保険の専門家が解説します。D&O保険の存在を知り、意思決定プロセスを記録し、年間数十万円で数億円のリスクに備えましょう
役員が個人で訴えられた実例と対策
非上場企業で役員が個人として訴えられるケースが増えています。共同創業者間の紛争、取引判断の失敗、ハラスメントの管理責任など、具体的な事例をもとにD&O保険の専門家が解説します
非上場企業でも役員が個人で訴えられるリスク
D&O保険は上場企業だけのものではありません。非上場の中小企業でも役員が個人で訴えられるリスクは存在します。共同経営者トラブルや事業承継時のリスクについて保険の専門家が解説します

