IPO企業のD&O保険の補償額と範囲の決め方
この記事のポイント
IPO準備企業がD&O保険の補償額や補償範囲をどう決めるべきかを専門家が解説します。会社の規模や時価総額によって異なり、上場企業は10億円程度が目安。補償は賠償金と防御費用のパッケージが一般的です
IPO準備企業がD&O保険に加入する際、最も悩むのが「補償額をいくらにするか」「補償範囲をどこまでにするか」です。
補償額は会社の規模や時価総額によって決めるのが一般的で、上場企業であれば10億円程度が目安です。この記事では、D&O保険の専門家への取材をもとに、IPO企業がD&O保険の補償額と補償範囲をどのように決めるべきかを解説します。

補償額の決め方は会社の規模次第
D&O保険の補償額を決める際の基本的な考え方は、会社の規模に応じた設定です。企業が直面しうる損害の大きさに合わせて、適切な補償額を選ぶ必要があります。
上場企業の場合、株主からの代表訴訟や投資家からの損害賠償請求が発生した際の損害額は、非上場企業と比べて格段に大きくなります。そのため、補償額も大きく設定する必要があります。上場前後のリスク変化の詳細については上場前後で変わる役員の個人責任リスクをご覧ください。
| 企業区分 | 補償額の目安 |
|---|---|
| 非上場の中小企業 | 1億円から5億円 |
| 上場企業 | 10億円以上 |
補償額の設定基準は「想定される損害額」
補償額を決める際のポイントは、1回の損失でどの程度の損害が出うるかを想定することです。

補償額を大きくすれば安心ですが、保険料も上がりますよね。どうバランスを取ればいいのですか?
具体的には、以下のような要素を考慮して補償額を決定します。
- 会社の時価総額や売上規模
- 株主の構成(機関投資家の比率など)
- 業種ごとの訴訟リスクの高さ
- 取締役の人数や構成
保険の専門家と相談しながら、自社に最適な補償額を設定するのが最善の方法です。
補償範囲はパッケージ化されている
D&O保険の補償範囲について、多くの経営者が「何がカバーされるのか」を気にしますが、実はD&O保険の補償範囲は基本的にパッケージ化されています。
D&O保険で補償される項目は、主に以下の2つに大別されます。
1. 損害賠償金
役員個人が支払うべき損害賠償金を補償します。株主代表訴訟で敗訴した場合や和解金の支払いなど、役員個人が経済的に負担する賠償金をカバーします。
2. 争訟費用(防御費用)
弁護士費用、訴訟費用、調査費用など、訴訟に対応するために必要な費用を補償します。勝訴した場合であっても弁護士費用は発生するため、この補償は非常に重要です。
補償の対象外となるケース
D&O保険はすべてのリスクをカバーするわけではありません。補償の対象外となるケースがあることも理解しておく必要があります。

D&O保険で補償されないケースにはどのようなものがありますか?
主な補償対象外のケースは以下の通りです。
- 役員の故意による不正行為
- 役員本人が直接加害者となるハラスメント
- 犯罪行為に起因する損害
- 保険加入前に発生していた事案
ただし、管理監督責任として問われる場合(部下のハラスメントを認識していたのに対処しなかったなど)は補償対象となります。役員が訴えられた際の弁護士費用や賠償額の相場については役員が訴えられたときの弁護士費用と賠償額の相場で解説しています。
IPO企業ならではの補償設計のポイント
IPO準備企業がD&O保険を設計する際には、一般的な企業とは異なる視点が必要です。
ポイント1. 上場後のリスク増大を見据えた設計
上場後は不特定多数の投資家が株主となるため、訴訟リスクが飛躍的に高まります。上場前の規模感で補償額を設定してしまうと、上場後に補償が不足する可能性があります。
上場後の想定時価総額や株主構成の変化を踏まえて、余裕を持った補償額を設定しましょう。IPO準備段階からD&O保険を検討すべき理由についてはIPO準備企業のD&O保険相談が増加する理由も参考にしてください。
ポイント2. 開示リスクへの備え
IPO企業は有価証券届出書や目論見書の記載に関して、特有のリスクを抱えています。開示資料の不備や業績予想との乖離が訴訟の種になることを念頭に置いた補償設計が重要です。開示書類に関する訴訟リスクについては目論見書や開示書類で役員が訴えられるケースで詳しく解説しています。
ポイント3. 社外取締役との関係
IPO準備にあたって社外取締役を招聘する際、D&O保険の補償内容は候補者にとって重要な判断材料になります。社外取締役が安心して就任できる補償内容を確保しましょう。
保険料の目安と費用対効果
D&O保険の保険料は、企業の規模や業種、訴訟リスクの高さによって異なります。
非上場の中小企業であれば年間数十万円程度から加入できるのが一般的です。上場企業で補償額を10億円以上に設定する場合は、保険料も相応に上がりますが、役員個人が負う可能性のある賠償額と比較すれば、合理的な投資と考えられます。
保険料は会社が契約者として負担するのが一般的で、会社の経費として処理できます。役員個人の費用負担はありません。
補償設計は専門家と相談すべき
D&O保険の補償額や補償範囲の設定は、企業ごとの状況に応じて最適な設計が異なります。自社だけで判断するのではなく、保険の専門家と相談しながら決めることをおすすめします。
専門家に相談する際に準備しておくとよい情報は以下の通りです。
- 会社の売上規模と従業員数
- 上場予定時期と想定時価総額
- 株主の構成(現在と上場後の見込み)
- 社外取締役の有無と人数
- 過去のトラブルや訴訟の経験
まず見積もりを取ることが第一歩
D&O保険の補償額や補償範囲について「自社に何が最適かわからない」という方は、まず見積もりを取ってみることが第一歩です。
D&O保険の相談は無料で受けられることがほとんどです。現在のリスク状況の把握から、最適な補償設計の提案まで、保険の専門家がサポートしてくれます。IPO準備中の企業は、上場スケジュールと合わせて早めに検討を始めましょう。IPO準備中のリスク管理の具体的なポイントについてはIPO準備中の役員が今やるべきリスク管理もあわせてお読みください。
この記事のまとめ
- D&O保険の補償額は会社の規模や時価総額に応じて設定し、上場企業であれば10億円程度が目安になる
- 補償範囲は基本的にパッケージ化されており、賠償金と争訟費用(弁護士費用)がセットで補償される
- 悪質な故意による不正行為や役員本人によるハラスメントは補償対象外となる
- IPO企業は上場後のリスク増大を見据え、余裕を持った補償設計を専門家と相談して決めるべき
IPO企業のD&O保険の補償額はいくらが一般的ですか?
会社の規模や時価総額によって異なりますが、上場企業であれば10億円程度を用意しておけば安心です。1億円だと物足りないというのが専門家の見解です。非上場の中小企業であれば1億円から5億円が一般的です。
D&O保険の補償範囲にはどのようなものが含まれますか?
基本的にパッケージ化されており、損害賠償金(役員個人が負担する賠償金)と争訟費用(弁護士費用、訴訟費用)の2つがセットで補償されます。
D&O保険の補償額はどのように決めればよいですか?
1回の損失でどの程度の損害が出うるかを基準に考えます。数億円規模の損失が出る可能性があるなら、それをしっかりカバーできる補償額に設定すべきです。保険の専門家と相談して決めるのが最善です。
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