中小企業の経営者が自分の身を守る方法
この記事のポイント
中小企業の経営者が「自分の身を守る」ためにまず知っておくべきことをD&O保険の専門家が解説します。D&O保険の存在を知り、意思決定プロセスを記録し、年間数十万円で数億円のリスクに備えましょう
「まさか自分が訴えられるなんて」。そう感じる中小企業の経営者がほとんどですが、現実には役員個人が訴えられるリスクは存在し、年々高まっています。
中小企業の経営者が自分の身を守るための第一歩は、D&O保険(会社役員賠償責任保険)の存在を知ることです。そもそもD&O保険をご存じない方のほうが多いのが現状です
この記事では、D&O保険の専門家への取材をもとに、中小企業の経営者が「自分の身を守る」ためにまず知っておくべきことと、具体的な備え方について解説します。

ほとんどの経営者がD&O保険を知らない
D&O保険(会社役員賠償責任保険)は、役員が個人として訴えられた場合の損害賠償金や弁護士費用を補償する保険です。しかし、この保険の存在を知っている中小企業の経営者は非常に少ないのが実情です。
「D&O保険は上場企業のもの」「うちはオーナー企業だから関係ない」と考えている経営者は多いですが、これは大きな誤解です。非上場の中小企業であっても、共同経営者からの訴訟、従業員からのハラスメント訴訟、取引先からの損害賠償請求など、役員個人が責任を問われるリスクは存在しています。非上場企業のリスクの実態については非上場企業でも役員が個人で訴えられるリスクで詳しく解説しています。
経営者が知っておくべき3つのリスク
中小企業の経営者が最低限認識しておくべきリスクは、以下の3つです。
リスク1. 役員は個人で訴えられる
これまで日本では、企業のトラブルは会社対会社で解決するのが一般的でした。しかし近年、会社だけでなく役員個人も訴えられるケースが増えています。
会社には会社の資産を狙って訴訟し、役員には役員個人の資産を狙って訴訟するという二重の訴訟が行われることもあります。情報化社会の中で「役員個人も訴えられる」という知識が広まり、弁護士もそれを積極的に活用するようになっています。
リスク2. 訴訟費用は個人の資産では対応困難
役員が訴えられた場合、弁護士費用だけで数百万円から数千万円、損害賠償金は数千万円から数億円に上ることがあります。勝訴したとしても弁護士費用は基本的に自己負担です。個人の貯蓄で対応できるレベルを超えていることがほとんどです。費用の詳しい相場については役員が訴えられたときの弁護士費用と賠償額の相場をご覧ください。
リスク3. 訴えられてからでは遅い
D&O保険は、トラブルが発生してからでは加入できません。共同経営者との関係が悪化してから、ハラスメントの問題が表面化してから、取引先との紛争が始まってからでは手遅れです。

具体的にどのような場面で訴えられるのですか?
身を守るための第一歩は「知ること」
D&O保険の専門家が強調するのは、まず「知ること」の重要性です。
多くの経営者は、D&O保険の存在を知らないまま経営を続けています。そして実際にトラブルが起きて初めて「こんな保険があったのか」と知るケースが少なくありません。
しかし、保険は事前に加入しておかなければ意味がありません。経営者が身を守るための第一歩は、以下の2つの事実を認識することです。
- 役員は個人として訴えられるリスクがある
- そのリスクに備えるD&O保険という仕組みがある
身を守るための3つの具体策
D&O保険の存在を知った上で、経営者が具体的に取るべき行動は以下の3つです。
1. 意思決定プロセスを記録する
万が一訴えられた場合に、最も強力な防御手段となるのが意思決定プロセスの記録です。取締役会の議事録、外部専門家への相談記録、判断の根拠となった調査資料を保存しておきましょう。
記録として残すべき項目は以下の通りです。
- 取締役会の議事録(出席者、議題、議論の内容、決議結果)
- 重要な経営判断の根拠となった調査資料やデータ
- 外部専門家(弁護士、会計士、コンサルタント)への相談記録
- 重要な契約の検討過程
2. 社内体制を整備する
ハラスメント訴訟のリスクに備えるためには、社内体制の整備が不可欠です。具体的には以下の対策が必要です。
- ハラスメント相談窓口の設置
- 社内規定の整備(ハラスメント防止規定など)
- 報告が上がってきた際の迅速な調査体制
- 問題が発生した場合の再発防止策の策定

社内体制を整備しておけば、訴訟を避けられますか?
これらの体制を整えておくことで、まずハラスメントの発生そのものを防ぐ効果があります。加えて、万が一訴えられた場合にも「会社としてこれだけの対策を実施していました」と主張できるため、賠償責任を軽減できる可能性があります。実際に訴えられた場合の具体的な対応策については役員が個人で訴えられた実例と対策も参考にしてください。
3. D&O保険に加入する
意思決定プロセスの記録や社内体制の整備は重要ですが、それだけでは訴訟リスクを完全に排除することはできません。万が一訴えられた場合の経済的なリスクをカバーするために、D&O保険への加入が必要です。
D&O保険は年間数十万円で加入できる
D&O保険は大企業向けの高額な保険というイメージがあるかもしれませんが、非上場の中小企業であれば年間数十万円程度から加入できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保険料 | 年間数十万円程度から |
| 補償額 | 1億円から5億円が一般的 |
| 補償対象 | 損害賠償金、弁護士費用 |
年間数十万円の保険料で、数千万円から数億円の賠償リスクに備えられるのですから、費用対効果は極めて高いと言えます。
保険料は会社が負担するのが一般的で、会社の経費として処理できます。役員個人の出費が増えるわけではありません。
攻めの経営のための「守り」
D&O保険は単なる「守り」の保険ではありません。役員個人のリスクを軽減することで、経営者が本来取るべき意思決定に集中できる環境を整えるためのものです。
経営者が訴訟リスクを恐れて攻めた判断を避けるようになると、会社の成長は止まります。リスクに対する適切な備えがあってこそ、大胆な経営判断が可能になるのです。
また、社外取締役の招聘を検討している企業にとっては、D&O保険への加入は実質的に必須です。D&O保険のない会社への就任を断る社外取締役候補は実際に増えています。優秀な人材を確保するためにも、D&O保険は重要な意味を持ちます。この問題についてはD&O保険なしの会社は社外取締役を断られる時代で詳しく取り上げています。
まず専門家に相談してみる
D&O保険について「うちの会社に必要なのかどうかわからない」「どのくらいの補償額にすればいいのかわからない」と感じるのは自然なことです。
企業ごとにリスクの大きさや必要な補償内容は異なります。まずは保険の専門家に相談して、自社にとって最適な備え方を検討してみましょう。IPOを目指す企業のD&O保険検討についてはIPO準備企業のD&O保険相談が増加する理由も参考にしてください。
この記事のまとめ
- D&O保険の存在を知らない中小企業の経営者が多いが、役員個人が訴えられるリスクは上場・非上場を問わず存在する
- 身を守る第一歩は「役員は個人で訴えられる」「その備えとなるD&O保険がある」という2つの事実を知ること
- 意思決定プロセスの記録、社内体制の整備、D&O保険への加入の3つが具体的な対策
- D&O保険は年間数十万円程度から加入でき、攻めの経営を支える基盤になる
中小企業の経営者が身を守るためにまず何をすべきですか?
まずD&O保険(会社役員賠償責任保険)の存在を知ることが第一歩です。役員が個人で訴えられるリスクがあることを認識し、年間数十万円程度で加入できるD&O保険で備えることができます。
D&O保険はすべての企業に必要ですか?
上場・非上場を問わず、役員個人にリスクがあるという点は変わりません。保険の専門家はすべてのお客さまにD&O保険を案内しています。特に共同経営者がいる企業や事業承継を控えている企業は加入を検討すべきです。
D&O保険以外にできるリスク対策はありますか?
意思決定プロセスを議事録として記録すること、専門家への相談記録を残すこと、ハラスメント対策として相談窓口を設置することなどが有効です。これらの対策と保険の両方で備えることが大切です。
D&O保険に加入するタイミングはいつが最適ですか?
トラブルが起きてからでは加入できません。関係者との関係が良好なうちに加入しておくことが重要です。特に事業承継や社外取締役の招聘を予定している場合は、早めに検討することをおすすめします。
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