「うちは大丈夫」が一番危険。ハラスメント訴訟の現実
この記事のポイント
ハラスメント訴訟は起きないと思っている経営者こそ危険です。退職代行の増加や弁護士紹介ニーズの高まりで訴訟リスクはどの企業にもあります。従業員30人規模でもハラスメントは起きており、D&O保険での備えが重要です
「うちの会社でハラスメント訴訟なんて起きない」。そう考えている経営者が少なくありません。しかしD&O保険の専門家は「ハラスメントのリスクがない会社はほとんどない」と指摘しています。退職代行の普及や弁護士紹介ニーズの高まりで、どの企業でも訴訟リスクが現実のものとなっています。

「起きない」ではなく「起きる前提」で考える
ハラスメント訴訟は増加傾向にあります。D&O保険の専門家もこう指摘するほど、ハラスメントに関連する相談は増えています。
にもかかわらず、「うちは大丈夫」と考えている経営者がいまだに存在します。しかし、ハラスメントのリスクがない会社はほとんどありません。従業員が数人で社長がすべてに目を配れる規模でなければ、多くの企業にリスクがあると考えられます。ハラスメント関連のD&O保険相談が急増している背景についてはハラスメント相談でD&O保険の問い合わせが急増中で詳しく解説しています。
経営者に求められるのは、「ハラスメントは起きない」という前提ではなく、「起きた時にどうするか」を事前に準備しておくことです。そして「起こらないようにどうするか」も同時に考えることが大切です。
退職代行の増加が訴訟リスクを拡大している
ハラスメント訴訟が増加している背景の一つに、退職代行サービスの存在があります。
退職代行サービスを利用する従業員が退職相談の中で「実はハラスメントがあった」「未払い残業がある」といった問題を伝えると、退職代行を通じて弁護士を紹介され、「会社と役員を訴えましょう」という流れになるケースが増えています。
この流れは退職代行が違法に斡旋するかどうかとは別の問題です。退職の過程で従業員が法的手段の存在を知り、弁護士に相談して訴訟に踏み切るというルートが確立されつつあります。
従業員の側から見れば、退職時にハラスメントの被害を訴えて数百万円の賠償金を得られる可能性があるとわかれば、訴訟を起こすインセンティブが生まれます。この構図は、退職代行の利用が広がるほど加速していく傾向にあります。

退職代行を使って辞めた従業員から後日訴えられることはありますか?
実際にあります。退職代行への相談がきっかけで弁護士を紹介され、ハラスメント訴訟に至るケースが報告されています。退職した従業員が在職中の被害を理由に訴訟を起こすことは法的に可能であり、退職後でもリスクは残ります。
弁護士紹介ニーズの高まりが意味すること
退職代行と関連して注目すべきなのは、弁護士紹介のニーズが高まっていることです。ハラスメント被害を受けた従業員が法的手段を検討する際に、手軽に弁護士にアクセスできる環境が整ってきています。
かつては、従業員がハラスメント被害で訴訟を起こすこと自体がハードルの高い行動でした。弁護士の探し方がわからない、費用が心配、そもそも訴訟で勝てるのかわからないといった障壁がありました。
しかし現在は、退職代行サービスからの紹介、インターネットでの弁護士検索、初回無料相談を提供する法律事務所の増加など、弁護士へのアクセスが格段に容易になっています。従業員にとって「訴えること」のハードルが大幅に下がっているのです。
この環境変化は、「うちは大丈夫」と考えている経営者にとって見逃せないリスク要因です。従業員が訴訟に踏み切るかどうかは、被害の深刻さだけでなく、法的手段へのアクセスのしやすさにも大きく左右されるからです。D&O保険で経営者個人を守る仕組みについては中小企業の経営者が自分の身を守る方法もあわせてお読みください。
従業員30人規模でもリスクは現実に存在する
「ハラスメントは大企業の問題」という認識は完全な誤りです。D&O保険の専門家によると、従業員30人程度の企業でもハラスメント問題が発生するケースは珍しくありません。
企業の規模が大きくなるほどリスクは高まる傾向にありますが、社長が全従業員を直接管理できる数人規模の会社でない限り、一定のリスクがあると考えられます。従業員がいる以上、人間関係のトラブルやコミュニケーションのすれ違いは避けられず、それがハラスメントとして問題化する可能性は常にあります。
実際の事例としても、パワハラとまではいかないような状況で従業員がうつ病になり休職、そのまま退職に至り、不当解雇を主張されるケースが報告されています。ハラスメントの認定基準は被害者の主観にも影響されるため、加害者に悪意がなくても問題化することがあるのです。部下のハラスメントで役員が訴えられる具体的なパターンについては部下のハラスメントで役員が訴えられるケースとはをご覧ください。

従業員が少ない会社ではハラスメントのリスクは低いですか?
従業員が数人で社長がすべてに目を配れる規模であればリスクは限定的ですが、それ以上の規模になれば等しくリスクがあります。従業員30人程度の会社でもハラスメント問題は当たり前のように起きているのが現実です。
パワハラ未満でも問題化するケース
「明確なパワハラやセクハラではないから大丈夫」と考えている経営者もいますが、パワハラと認定されるかどうかのグレーゾーンでも問題化するケースが報告されています。
実際の事例として、パワハラとまではいかないような状況で従業員がうつ病になり休職し、そのまま退職に至ったケースがあります。このケースでは「不当解雇ではないか」と主張される事態になりかけましたが、試用期間中だったため大事には至りませんでした。
しかし、このように従業員が自分で情報を調べて、会社に対して法的な主張をするケースは増えています。こうしたケースも報告されており、経営者はその可能性を認識しておくことが望ましいです。
これはハラスメントの問題だけでなく、労務管理全般に関わるリスクです。従業員の健康状態の管理、適切な業務配分、退職時の手続きの適正化など、日常的な労務管理の質がそのまま訴訟リスクの大きさに影響します。
会社と役員個人の両方が狙われる二重訴訟
ハラスメント訴訟では、会社だけでなく役員個人に対しても訴訟が起こされます。会社には会社の資産を狙って、役員個人には個人の資産を狙って、二重で訴訟を提起するケースも見られます。
セクハラ訴訟の場合、賠償額は数百万円規模が一般的です。会社にとっては経営を揺るがすほどの金額ではないかもしれませんが、役員個人にとっては大きな負担です。
さらに重要なのは、D&O保険で補償されるのは管理監督責任を問われた場合に限られるという点です。役員本人がハラスメントの加害者である場合はD&O保険の補償対象外となります。D&O保険の補償範囲と限界についてはハラスメント訴訟でD&O保険はどこまで補償するかで詳しく解説しています。
今すぐ始めるべき3つの対策
「うちは大丈夫」と思っている経営者こそ、早めに対策を検討することが望ましいです。D&O保険の専門家が推奨する対策は以下の3つです。
1つ目は相談窓口の設置です。従業員がハラスメントの被害を安心して報告できる環境を整えることが基本です。窓口が存在しない場合、被害者は直接外部の弁護士に相談して訴訟に至るリスクが高まります。
2つ目は迅速な調査と対応体制の構築です。通報が上がった時に放置せず、速やかに調査し対処できる仕組みを作ります。通報を受けたにもかかわらず対応しなかったことが、役員個人の管理監督責任を問われる最も典型的なパターンです。
3つ目はD&O保険への加入です。相談窓口や調査体制を整備しても、訴訟リスクをゼロにすることはできません。万が一訴訟になった場合に、弁護士費用と賠償金をカバーするD&O保険は、役員個人の資産を守るための経済的な備えとして有効です。企業として整備すべき具体的なハラスメント対策についてはD&O保険だけでは不十分?企業が整備すべきハラスメント対策で解説しています。
この記事のまとめ
- 「ハラスメントが起こりえない会社はない」がD&O保険の専門家の見解
- 退職代行の普及と弁護士紹介ニーズの高まりで、従業員が訴訟に踏み切るハードルが下がっている
- 従業員30人規模の企業でもハラスメント問題は現実に起きている
- 相談窓口の設置、迅速な調査体制、D&O保険への加入の3つを今すぐ整備することが重要
小規模企業でもハラスメント訴訟のリスクはありますか?
はい。従業員30人程度の企業でもハラスメント問題が発生するケースは珍しくありません。社長の目が届かない範囲がある限り、どの企業にもリスクがあります。
退職代行サービスの増加がハラスメント訴訟に影響していますか?
大きく影響しています。退職時に退職代行へ相談する中でハラスメント被害が顕在化し、弁護士を紹介されて訴訟に至るケースが増えています。
ハラスメント訴訟は増加傾向にありますか?
圧倒的に増えています。社会全体のハラスメントに対する意識の高まり、退職代行の普及、法的手段へのハードルの低下が主な要因です。
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