ハラスメント相談でD&O保険の問い合わせが急増中
この記事のポイント
ハラスメント問題に関連してD&O保険の相談が増えています。管理義務の放置や再発防止策の未実施も訴訟リスクにつながります。退職代行の普及で役員個人が訴えられるケースが増加している背景と対策を解説します
ハラスメント問題に関連してD&O保険(会社役員賠償責任保険)の相談が急増しています。加害者が部下であっても、管理義務の放置や再発防止策の未実施を理由に、役員個人が訴えられるリスクが高まっているためです。

ハラスメント関連のD&O保険相談が増えている背景
近年、ハラスメント問題に関連してD&O保険の相談が圧倒的に増えています。D&O保険の専門家も「ハラスメント関連の相談は増えている」と指摘しており、この傾向は今後も続く可能性があります。
相談が増えている背景には、ハラスメントに対する社会的な意識の高まりがあります。パワハラ防止法の施行以降、企業に対するハラスメント対策の義務が明確化され、それに伴って役員個人の責任も問われやすくなっています。
特に注目すべきなのは、ハラスメントの加害者が役員本人でなくても、管理監督責任を理由に役員が訴えられるケースが増えていることです。末端社員によるハラスメントであっても、その報告が上層部に上がっていたにもかかわらず適切な対応を取らなかった場合、経営者や役員の個人責任が問われます。具体的にどのような場合に役員個人の責任が問われるかは部下のハラスメントで役員が訴えられるケースとはで詳しく解説しています。
退職代行の普及がD&O保険相談を加速させている
ハラスメント関連のD&O保険相談が増加している要因の一つに、退職代行サービスの普及があります。
退職代行サービスを利用して退職する従業員が、退職の相談をする中で「実はハラスメントがあった」「未払い残業がある」といった問題を退職代行の担当者に伝えることがあります。その結果「弁護士を紹介するので、会社と役員を訴えましょう」という流れになるケースが実際に起きています。
つまり、従業員が退職する際にハラスメントの問題が顕在化し、弁護士を通じて会社と役員個人の両方に対して訴訟が提起されるという構図が生まれています。
この流れは退職代行そのものが斡旋するかどうかに関わらず、従業員に対して「こういう方法でお金を取れる」という知識が広まっていることが大きな要因です。ハラスメントに苦しんでいた従業員が、退職を機に法的手段を取ることへのハードルが下がっています。

退職代行を使って辞めた従業員から訴えられることがあるのですか?
退職代行を通じて弁護士を紹介され、ハラスメント被害として会社と役員個人の両方を訴えるケースが増えています。退職代行の利用が増加している現在、この流れは経営者にとって無視できないリスクとなっています。
従業員の意識変化と「言ったもん勝ち」の構図
ハラスメント訴訟が増加している背景には、従業員側の意識変化もあります。D&O保険の専門家は「今は会社より従業員の方が強いみたいな構図になっている」と指摘しています。
かつては、ハラスメント被害を受けても「我慢する」「転職して解決する」という対応が一般的でした。しかし現在は、ハラスメント被害を法的手段で解決するという選択肢が広く認知されるようになっています。インターネットで情報を調べ、弁護士に相談し、会社と役員を訴えるという一連のプロセスへのハードルが大幅に下がっています。
さらに、従業員の側からすれば、ハラスメント被害を訴えることで数百万円の賠償金を得られる可能性があるという認識が広まっています。この認識は、訴訟に踏み切るインセンティブとなり得ます。
経営者としては、従業員がいつでも訴訟を起こせる環境にあるという前提でリスク管理を行う必要があります。「従業員を信頼しているから大丈夫」という考え方だけでは、リスク管理の観点からは十分とは言えません。ハラスメント対策を怠った場合のリスクについてはハラスメント対策を怠ると経営者に降りかかるリスクもあわせてお読みください。
管理義務の放置が訴訟リスクを高める
ハラスメント関連の訴訟で役員が個人責任を問われる典型的なパターンは、管理義務の放置です。具体的には以下のようなケースが該当します。
- ハラスメントの問題を認識していたにもかかわらず放置していた
- 従業員からの通報が社内であったにもかかわらず対応しなかった
- ハラスメントが発生した後に再発防止策を取らなかった
これらの対応不備があると、たとえハラスメントの加害者が末端社員であっても、経営者や役員が管理監督責任を問われて賠償請求されるリスクがあります。
大きな組織で末端社員がハラスメントをしていた場合でも、その報告が上に上がってきて認識していたにもかかわらず対応をしっかりしなかったことで訴えられるケースがあるのです。
会社と役員個人への二重訴訟が現実に起きている
ハラスメント訴訟では、会社と役員個人の両方に対して訴訟が起こされることが珍しくありません。
会社に対しては会社の資産を狙って訴訟を起こし、役員個人に対しては役員個人の資産を狙って訴訟を起こすという二重の訴訟が当たり前のように行われているのが現状です。
セクハラ訴訟の場合、賠償額は数百万円規模になることが一般的とされています。金額だけを見ると会社の負担としてはそこまで大きくないと感じるかもしれませんが、役員個人にとっては大きな経済的負担となります。
さらに、裁判では証拠の管理が重要になります。被害を受けた従業員がさまざまな証拠を提出する一方で、会社側が証拠を管理していなかった場合、不利な立場に追い込まれる可能性があります。冤罪とまではいかなくても、証拠不足により不利な判決が出るリスクがあるのです。D&O保険で経営者個人を守る仕組みについては中小企業の経営者が自分の身を守る方法も参考になります。

会社として証拠を管理していないとどうなりますか?
ハラスメント訴訟では、被害を受けた従業員が証拠を出す一方で、会社として何も証拠を管理していなかった場合、不利な立場になる可能性があります。相談対応の記録、調査の経緯、再発防止策の実施状況など、日頃から記録を残しておくことが重要です。
D&O保険でカバーできる範囲と限界
ハラスメント訴訟においてD&O保険は、弁護士費用と賠償金の両方をカバーします。悪質な故意性が認められない限り、基本的に弁護士費用と賠償金のどちらも補償対象となります。
ただし、ここで非常に重要な注意点があります。D&O保険で補償されるのは、部下がハラスメントを行い、それに対する管理監督責任を役員が問われるケースに限られます。役員本人がハラスメントの加害者である場合は、D&O保険の補償対象外です。
つまり、D&O保険が適用されるのは「管理監督責任」を問われた場合であり、役員自身のハラスメント行為に対しては補償されません。この点を理解しておくことは、D&O保険を検討する上で欠かせません。補償範囲の詳細についてはハラスメント訴訟でD&O保険はどこまで補償するかをご覧ください。
相談が増えている今こそD&O保険を検討すべき理由
ハラスメント問題に対する社会の目が厳しくなり、退職代行サービスの普及で従業員が訴訟に踏み切るハードルも下がっています。「うちの会社では起きない」と考えている経営者がいるかもしれませんが、従業員が30人程度の規模でもハラスメント問題が発生するケースは珍しくありません。
ハラスメントのリスクがない会社はほとんどないというのが、D&O保険の専門家としての見解です。従業員数が増えれば増えるほどリスクは高まりますが、少人数の会社でも社長の目が届かない範囲がある限りリスクは存在します。
D&O保険は、万が一ハラスメント訴訟で管理監督責任を問われた際に、弁護士費用や賠償金をカバーして役員個人の資産を守る役割を果たします。保険に加入するだけでなく、相談窓口の設置や再発防止策の整備と併せてリスク管理を進めることが求められます。企業が整備すべき具体的な対策についてはD&O保険だけでは不十分?企業が整備すべきハラスメント対策で解説しています。
この記事のまとめ
- ハラスメント関連のD&O保険相談は圧倒的に増えている
- 退職代行サービスの普及で、退職時に弁護士を通じて訴訟に至るケースが増加
- 管理義務の放置、通報への不対応、再発防止策の未実施は訴訟リスクを高める
- D&O保険は管理監督責任を問われた場合の弁護士費用と賠償金をカバーするが、役員本人のハラスメント行為は補償対象外
ハラスメント関連のD&O保険相談はどのくらい増えていますか?
D&O保険の専門家によると、ハラスメント関連の相談は圧倒的に増えています。退職代行サービスの普及により、従業員が弁護士を通じて会社と役員個人を訴えるケースが増加していることが背景にあります。
管理義務を放置した場合も訴えられますか?
はい。ハラスメントの問題を認識していたにもかかわらず放置した場合や、再発防止策を取らなかった場合、役員個人が管理監督責任を問われて賠償請求される可能性があります。
ハラスメント訴訟で役員個人が負う賠償額はどの程度ですか?
セクハラ訴訟の場合、賠償額は数百万円規模になることが一般的です。さらに会社と役員個人の両方に対して訴訟が起こされるケースもあり、二重で賠償リスクを負うことになります。
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