D&O保険なしの会社は社外取締役を断られる時代
この記事のポイント
D&O保険に未加入の会社への社外取締役就任を断るケースが増えています。優秀な人材を招聘するためにD&O保険の加入が必須条件になりつつある背景と、企業側が取るべき対策を解説します
D&O保険に加入していない会社に対して、社外取締役の就任を断るケースが増えています。個人として賠償責任を問われるリスクに対する備えがない状態での就任には、相応のリスクが伴うためです。社外取締役を招聘したい企業が知るべき、D&O保険の必要性を解説します。

D&O保険のない会社を断る社外取締役が増えている
社外取締役の候補者がD&O保険の加入状況を確認し、未加入であれば就任を断るケースが増えています。この傾向はここ数年で加速しており、特にコーポレートガバナンスへの意識が高い大手企業出身者やコンサルタントに顕著です。
D&O保険の専門家への相談でも、社外取締役の就任を打診された方から「D&O保険に入っているか確認したほうがいいですか」という問い合わせが非常に多くなっています。
断る理由は明確です。社外取締役は取締役としての法的責任を負い、万が一訴えられた場合の賠償金は数千万円から数億円に達する可能性があります。年間数百万円程度の報酬と比較して、リスクが圧倒的に大きいのです。社外取締役のリスクの全体像については社外取締役の就任前に知るべきリスクと備えで解説しています。
なぜ社外取締役はD&O保険の有無を重視するのか
社外取締役がD&O保険の有無を重視する背景には、3つの要因があります。
1つ目は役員個人への訴訟リスクの高まりです。日本ではこれまで会社を訴えることが一般的でしたが、近年は役員個人の資産を狙って訴訟を提起するケースが増えています。弁護士の間でも「取れるところから取る」という考え方が広がっており、役員個人が訴訟の標的になりやすくなっています。
2つ目はガバナンス意識の向上です。コーポレートガバナンス・コードでD&O保険の導入が推奨されるようになり、上場企業では加入が当たり前になりました。この流れは非上場企業にも広がっており、D&O保険に加入していないことが「ガバナンス意識が低い会社」という評価につながります。
3つ目は情報アクセスの容易さです。社外取締役のリスクに関する情報がインターネットで簡単に入手できるようになり、候補者自身がリスクを理解した上で判断できるようになりました。

D&O保険に入っていない会社は、ガバナンスが弱い会社ということですか?
D&O保険の加入だけでガバナンスの強弱は判断できませんが、役員のリスク管理に対する意識の表れではあります。社外取締役候補者から見れば、D&O保険に加入していない会社は「役員の個人責任に対する認識が不十分な会社」と映ります。それが就任を断る判断材料になっています。
企業側が失っているもの
D&O保険に未加入のまま社外取締役を募集している企業は、気づかないうちに大きな機会を失っています。
まず優秀な人材の確保が困難になります。社外取締役候補として有力な人材ほど、複数の企業から就任を打診されています。D&O保険の有無は複数の候補先を比較する際の重要な判断基準です。保険のない会社は選ばれにくくなります。
次にガバナンス体制の評価に影響します。取引先や金融機関、投資家からの評価において、社外取締役の不在はガバナンス体制の弱さとして捉えられます。優秀な社外取締役を招聘できないことで、間接的にビジネス上の不利益を被る可能性があります。
特にIPOを目指す企業にとって、社外取締役の確保は上場準備の必須要件です。D&O保険がないために社外取締役の招聘が遅れれば、上場スケジュールにも影響します。IPO準備とD&O保険の関係についてはIPO準備企業のD&O保険相談が増加する理由で詳しく解説しています。
D&O保険の基本的な補償内容
D&O保険は基本的にパッケージ化されており、主に3つの補償で構成されています。
| 補償項目 | 内容 |
|---|---|
| 損害賠償金 | 役員個人が負担する賠償金の補償 |
| 争訟費用 | 弁護士費用、訴訟費用の補償 |
| 会社補償 | 会社が役員に補償した費用の填補 |
補償額は会社の規模や時価総額によって設定します。非上場企業であれば1億円から5億円が一般的で、上場企業では10億円以上の設定も珍しくありません。
ただし注意点があります。役員本人が加害者となるハラスメント行為や、悪質な故意性が認められる行為は補償対象外です。あくまで管理監督責任や善管注意義務違反として問われた場合の補償です。
中小企業こそD&O保険が必要な理由
D&O保険は上場企業だけのものという認識は誤りです。非上場の中小企業でも、役員が個人として訴えられるリスクも存在します。
中小企業で特に注意が必要なケースは以下の通りです。
- 複数の株主がいる企業で、株主間の利害対立が生じた場合
- 共同経営者間で経営方針の対立が起きた場合
- 事業承継の場面で、旧経営陣の責任が問われる場合
- 従業員からハラスメントで訴えられる場合
- M&Aにおける判断の責任が問われる場合
中小企業の経営者の多くはD&O保険の存在自体を知りません。しかし従業員が30人程度の規模であっても、ハラスメント問題で役員個人が訴えられる可能性もあります。実際に社外取締役が個人責任を問われたケースについては社外取締役が個人責任を問われた事例と対策をご覧ください。

非上場の中小企業でも社外取締役を招聘する際にD&O保険は必要ですか?
非上場企業であっても、社外取締役に就任を引き受けてもらうためにD&O保険は必要です。上場・非上場を問わず役員個人にリスクがある以上、備えがなければ就任を断られる可能性が高くなります。年間数十万円程度の保険料で優秀な人材の確保につながるなら、検討する価値は十分にあると言えます。※保険料は企業規模や条件により異なります。
D&O保険の存在を知らない経営者が多い現実
D&O保険の存在自体を知らない経営者は、実はかなり多いのが現状です。サイバー保険とD&O保険は全てのお客さんに案内していますが、そもそもD&O保険という保険があることを知らなかったという反応が返ってくることが珍しくありません。
D&O保険の認知が低い背景には、日本ではこれまで役員個人への訴訟が少なかったという事実があります。「会社が訴えられることはあっても、役員個人が訴えられることはないだろう」という認識が根強く残っています。
しかし、社外取締役を招聘する際にD&O保険の有無を問われて初めてその存在を知り、慌てて加入を検討するケースが増えています。社外取締役の確保が経営上の課題になっている企業ほど、D&O保険への関心が高まる傾向にあります。
上場しているかどうかを問わず、役員個人にリスクがあるという点は変わりません。D&O保険の認知を高め、事前に備えておくことが重要です。就任前後の実践的なアドバイスについては社外取締役を引き受ける前に知るべきアドバイスもあわせてお読みください。
D&O保険導入で企業が得られるメリット
D&O保険の導入は、社外取締役の確保以外にも企業にとって複数のメリットがあります。
1つ目は既存役員の安心感です。一般的なD&O保険では社外取締役だけでなく、全役員が補償対象になります。代表取締役や常勤取締役も含め、経営判断に対する個人責任のリスクが軽減されます。
2つ目は攻めの経営判断の促進です。万が一の賠償リスクが軽減されることで、役員が本来取るべき意思決定に集中できる環境が整います。リスクを恐れて保守的な判断に偏ることを防ぐ効果があります。
3つ目はガバナンス体制の対外的な証明です。取引先や金融機関に対して、リスク管理体制が整っていることを示す材料になります。
D&O保険は単なる保険商品ではなく、企業のガバナンス体制を構成する重要な要素です。D&O保険の補償内容で確認すべき具体的な項目については社外取締役が確認すべきD&O保険の5つのポイントも参考にしてください。
会社と役員個人の両方を訴訟の対象にするケースが増えている今、D&O保険は経営の安定性を支える基盤と言えます。会社の資産を狙って会社を訴え、役員個人の資産を狙って役員を訴えるという二重の訴訟に対する備えとして、D&O保険の重要性はますます高まっています。
この記事のまとめ
- D&O保険に未加入の会社への社外取締役就任を断るケースが増加している
- 役員個人への訴訟リスク増加、ガバナンス意識の向上が背景にある
- D&O保険は非上場中小企業でも年間数十万円から加入でき、費用対効果が高い
- 社外取締役の確保だけでなく、既存役員の安心感や攻めの経営判断促進にもつながる D&O保険の無料相談はこちら
D&O保険がないと社外取締役の就任を断られますか?
D&O保険がない会社への就任を断る社外取締役候補は増えています。個人資産を守る備えがない会社にはリスクが大きすぎると判断されるためです。
D&O保険の保険料はいくらですか?
非上場の中小企業で年間数十万円程度から加入できます。補償額は1億円から5億円が一般的で、企業規模や業種によって変動します。
D&O保険はどのような企業が加入すべきですか?
社外取締役を招聘する企業、IPOを目指す企業、複数の株主がいる企業、M&Aを検討中の企業など、役員の個人責任リスクがある企業は加入を検討する価値があります。
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