社外取締役の就任前に知るべきリスクと備え
この記事のポイント
社外取締役の就任を打診されたとき、個人として負う賠償責任のリスクを理解していますか。報酬だけでなく万が一の訴訟リスクや個人資産への影響を知り、D&O保険による備え方を専門家が解説します
社外取締役の就任を打診されたとき、報酬や肩書きの魅力だけでなく、リスクについても理解しておくことが大切です。社外取締役は常勤の取締役と同じ法的責任を負い、万が一の経営判断ミスで個人として賠償責任を問われる可能性があります。就任前に知るべきリスクと備え方を解説します。

社外取締役の就任相談で多い不安とは
社外取締役の就任を検討している方からの相談は増えています。特にIPO準備中のスタートアップや、コーポレートガバナンス強化を進める中堅企業からの就任打診が増えたことで、候補者となる方々からの問い合わせも多くなっています。IPO準備中のD&O保険についてはIPO準備企業のD&O保険相談が増加する理由も参考にしてください。
相談者が抱える不安は大きく3つに分けられます。
- 万が一、会社の経営判断が問題になった場合に個人として訴えられるのか
- 訴えられた場合、弁護士費用や賠償金は自分の資産から支払うのか
- 実際にどの程度の頻度で社外取締役が訴訟に巻き込まれているのか
報酬は魅力的だが、何かあったときに自分の資産で賠償するのかという点がもっとも強い不安材料です。この不安は正当なものであり、就任前にしっかり理解しておくべき事項です。
社外取締役が負う法的責任の範囲
社外取締役であっても、会社法上の取締役としての義務は常勤の取締役と変わりません。具体的には、善管注意義務と忠実義務の2つを負います。
善管注意義務とは、取締役として合理的な注意を払って職務を遂行する義務です。取締役会での議案審議や経営方針の決定において、十分な情報収集と合理的な判断が求められます。
忠実義務とは、会社の利益のために誠実に職務を行う義務です。自分や第三者の利益を会社の利益より優先してはなりません。
これらの義務に違反した場合、会社や株主から損害賠償を請求される可能性があります。社外取締役は「社外」という立場であっても、取締役としての責任は軽減されません。

社外取締役は月に数回の取締役会に出席するだけなのに、常勤の取締役と同じ責任を負うのですか?
取締役会への出席頻度に関係なく、取締役としての法的義務は同じです。むしろ取締役会に出席していながら問題のある議案に対して異議を述べなかった場合、その決議に賛成したものとみなされます。社外取締役だからこそ独立した立場での監督機能が期待されており、形式的な出席だけでは責任を果たしたことにはなりません。実際に社外取締役が個人責任を問われたケースについては社外取締役が個人責任を問われた事例と対策で詳しく解説しています。
社外取締役が訴えられる具体的なケース
社外取締役が個人として責任を問われるケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。
1つ目は株主代表訴訟です。会社に損害を与えた取締役に対して、株主が会社に代わって損害賠償を請求する訴訟です。上場企業では不特定多数の投資家が株主になるため、リスクが飛躍的に高まります。非上場企業でも共同経営者間のトラブルで発生することがあります。
2つ目は有価証券届出書や目論見書の虚偽記載に関する責任です。IPO前後で開示資料に不備があった場合、投資家からの損害賠償請求の対象になります。会社にとってマイナスの情報を認識していたのに開示しなかった場合、訴訟の種になります。
3つ目はコンプライアンス違反に対する管理監督責任です。社内でハラスメントや不正行為があったことを認識していながら対処しなかった場合、取締役としての管理監督責任を問われます。
訴えられた場合の経済的インパクト
社外取締役が訴えられた場合に発生する費用は、大きく2つに分けられます。
1つ目は争訟費用です。弁護士費用や訴訟関連費用で、訴訟の規模や期間によって数百万円から数千万円に及びます。勝訴した場合でも弁護士費用は自己負担が原則です。
2つ目は損害賠償金です。敗訴した場合に支払う賠償金は、会社が受けた損害の規模に応じて決まります。数千万円から数億円に達することもあります。
社外取締役の報酬は年間数百万円程度が一般的ですが、賠償金は数億円に達する可能性があります。報酬と比較してリスクが大きく、個人の資産だけでは対応が難しいケースもあります。
D&O保険が社外取締役を守る仕組み
D&O保険(会社役員賠償責任保険)は、取締役や執行役員が経営判断に関して責任を問われた場合の賠償リスクを補償する保険です。
D&O保険が補償する範囲は以下の通りです。
- 損害賠償金(役員個人が負担する賠償金)
- 争訟費用(弁護士費用、訴訟費用など)
- 会社補償(会社が役員に補償した費用の填補)
D&O保険は会社が契約者となって加入するのが一般的です。保険料も会社が負担するため、社外取締役個人の費用負担はありません。非上場の中小企業であれば年間数十万円程度から加入でき、補償額は1億円から5億円が一般的です。

D&O保険は社外取締役が個人で加入するものですか?
D&O保険は会社が契約者として加入し、保険料も会社が負担します。補償の対象となるのは会社の全役員で、社外取締役も自動的に補償対象に含まれます。個人で加入する必要はありませんが、就任する会社がD&O保険に加入しているかどうかを事前に確認することが重要です。D&O保険がない会社への就任を断るケースについてはD&O保険なしの会社は社外取締役を断られる時代をご覧ください。
就任前に確認すべき3つのポイント
社外取締役の就任を検討する際に、最低限確認しておくべきポイントは3つあります。
1つ目はD&O保険の加入状況です。会社がD&O保険に加入しているか、補償額はいくらか、補償範囲に漏れはないかを確認します。D&O保険のない会社への就任を断る方も増えています。
2つ目は取締役会の運営体制です。取締役会での議論が記録として残されているか、議事録の保存体制はどうなっているかを確認します。万が一訴えられた際に、合理的な判断プロセスを経たことを示す証拠になります。
3つ目はコンプライアンス体制です。社内の相談窓口の設置状況、ハラスメントへの対応体制、再発防止策の有無を確認します。管理監督責任を問われるリスクを軽減するために重要な確認事項です。確認すべきポイントの詳細は社外取締役が確認すべきD&O保険の5つのポイントで解説しています。
日本でも高まる役員個人への訴訟リスク
以前の日本では、訴訟の対象は会社であり、役員個人が訴えられることはほとんどありませんでした。アメリカでは当たり前のように役員個人を訴える文化がありましたが、日本では基本的に会社への訴訟にとどまっていました。
しかし、この状況は大きく変わりつつあります。情報化社会の進展により、役員個人も訴えられるということが広く認識されるようになりました。弁護士も会社だけでなく役員個人の資産を狙って訴訟を提起するケースが増えています。
会社の資産を狙って会社を訴え、役員の個人資産を狙って役員を訴えるという二重の訴訟が行われることも珍しくありません。こうした傾向を踏まえ、社外取締役にとってのリスク管理の重要性も増しています。
リスクを理解した上で就任を判断する
社外取締役のリスクを知ることは、就任を断るためではありません。リスクを正しく理解し、適切な備えがある状態で就任することが、自分自身と会社の双方にとって最良の選択です。
D&O保険に加入し、取締役会の記録を適切に保存し、合理的な判断プロセスを経ていれば、万が一訴えられたとしても対処できます。リスクを避けるのではなく、適切に管理することが重要です。就任前に知っておくべき実践的なアドバイスについては社外取締役を引き受ける前に知るべきアドバイスもあわせてお読みください。
攻めた判断をする上で、役員個人のリスクを軽減し、本来取るべき意思決定に集中できる環境を整えることが、D&O保険の本質的な役割です。
この記事のまとめ
- 社外取締役は常勤の取締役と同じ法的責任を負い、個人として賠償責任を問われる可能性がある
- 株主代表訴訟、開示書類の虚偽記載、管理監督責任など訴えられるケースは複数存在する
- D&O保険は損害賠償金と争訟費用を補償し、社外取締役の個人資産を守る
- 就任前にD&O保険の加入状況、取締役会の運営体制、コンプライアンス体制を確認すべき D&O保険の無料相談はこちら
社外取締役にはどのようなリスクがありますか?
社外取締役は常勤の取締役と同じ善管注意義務を負い、経営判断のミスで個人として賠償責任を問われる可能性があります。株主代表訴訟や会社債権者からの訴訟の対象にもなります。
社外取締役の個人資産が差し押さえられることはありますか?
賠償責任が認められた場合、役員個人の資産で賠償金を支払う必要があります。D&O保険に未加入の場合、個人の預貯金や不動産が差し押さえの対象となる可能性があります。
社外取締役就任前にD&O保険の有無を確認すべきですか?
就任前にD&O保険の加入状況を確認することは重要です。D&O保険がない会社への就任を断るケースも増えており、個人のリスク管理として重要な確認事項です。
関連記事
「うちは大丈夫」が一番危険。ハラスメント訴訟の現実
ハラスメント訴訟は起きないと思っている経営者こそ危険です。退職代行の増加や弁護士紹介ニーズの高まりで訴訟リスクはどの企業にもあります。従業員30人規模でもハラスメントは起きており、D&O保険での備えが重要です
上場前後で変わる役員の個人責任リスク
上場前後で役員の賠償リスクはどう変わるのか。上場直後が一番危ないわけではなく、開示資料の不備やIPO前の過大表示が訴訟の種になります。D&O保険の専門家が上場前後のリスク変化を解説します
社外取締役を引き受ける前に知るべきアドバイス
これから社外取締役を引き受ける方へ、D&O保険の専門家からのアドバイスをまとめました。就任前の確認事項、リスク管理の考え方、意思決定プロセスの記録方法など実践的な内容を解説します

