社外取締役が個人責任を問われた事例と対策
この記事のポイント
社外取締役は名前を貸しただけでも個人として賠償責任を問われる可能性があります。実際に社外取締役が訴えられたケースのパターンと、個人資産を守るためのD&O保険による備え方を解説します
「名前を貸しただけ」の社外取締役であっても、個人として賠償責任を問われることがあります。社外取締役は取締役会に出席して監督機能を果たす義務があり、形式的な就任でもその義務は免除されません。実際に社外取締役が個人責任を問われたパターンと、備え方を解説します。

「名前を貸しただけ」でも責任が発生する理由
社外取締役として就任する際に「名前だけ貸してくれればいい」と言われるケースがあります。取締役会には形式的に出席するだけで、実質的な経営には関与しないという前提での就任です。
しかし、会社法上の取締役として登記された時点で、善管注意義務と忠実義務が発生します。この義務は「社外」「非常勤」「名義だけ」といった実態に関係なく、法律上の取締役である限り免れることはできません。
取締役会に出席して議案に対して異議を述べなかった場合、その決議に賛成したものとみなされます。問題のある経営判断が取締役会で決議され、それによって会社に損害が生じた場合、出席していた社外取締役も責任を問われる可能性があるのです。社外取締役のリスクの全体像については社外取締役の就任前に知るべきリスクと備えをご覧ください。
社外取締役が個人責任を問われるパターン
社外取締役が実際に個人として責任を追及されるケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。
1つ目は取締役会での監視義務違反です。代表取締役や常勤取締役の不正行為や不適切な経営判断を見過ごしていた場合に問われます。社外取締役には独立した立場からの監督が期待されており、問題を発見できる立場にありながら見逃していた場合は責任を問われます。
2つ目は利益相反取引への関与です。取締役会で利益相反取引を承認した場合、その取引によって会社に損害が生じたときに賠償責任を負う可能性があります。社外取締役として取引の妥当性を十分に検証したかどうかが問われます。
3つ目は開示情報の虚偽記載です。有価証券報告書や決算書類に虚偽の記載があった場合、取締役会でこれを承認した社外取締役も責任を負います。会社にとってマイナスの情報を認識していたのに開示しなかった場合は、訴訟の種になります。

社外取締役は経営に深く関与していないのに、なぜ責任を問われるのですか?
社外取締役の役割は経営の執行ではなく、経営の監督です。独立した立場から経営者をチェックする機能が期待されているからこそ、そのチェック機能が適切に働いていなかった場合に責任を問われます。経営に深く関与していないことが免責の理由にはなりません。
ハラスメント問題で管理監督責任を問われるケース
近年増加しているのが、ハラスメント問題に関連して社外取締役が責任を問われるケースです。
社内でハラスメントが発生し、それを会社として認識していたにもかかわらず適切な対処をしなかった場合、取締役としての管理監督責任が問われます。直接ハラスメントを行ったのが別の社員であっても、経営陣として問題を放置していたことが責任追及の根拠になります。
具体的には以下のようなケースで責任が発生します。
- 従業員からハラスメントの通報があったにもかかわらず対応しなかった
- ハラスメント問題を認識していたが放置していた
- 再発防止策を講じなかった
- 社内に相談窓口を設置していなかった
退職代行の利用増加も、ハラスメント関連の訴訟リスクを高めています。従業員が退職代行を通じて弁護士を紹介され、会社と役員個人を訴えるケースが増えています。役員が実際に訴えられた場合の具体的な対応フローについては役員が個人で訴えられた実例と対策も参考にしてください。
IPO前後で高まる社外取締役のリスク
IPO(株式上場)を目指す企業に社外取締役として就任する場合、上場前後で個人責任のリスクが大きく変化することを理解しておく必要があります。
上場前は株主が創業者や関係者に限られているため、株主代表訴訟のリスクは比較的低い状態です。しかし上場後は不特定多数の投資家が株主になるため、第三者からの賠償リスクが飛躍的に高まります。
特に注意が必要なのは、IPO前に会社の状況を大きく見せようとして実態とのギャップが生じるケースです。業績予想と実績の乖離や、開示資料の不備を指摘されるリスクがあります。投資家が相当な損害を受けた場合は訴訟まで発展する可能性があります。
訴えられた場合に社外取締役が直面する現実
社外取締役が訴えられた場合、経済的な負担だけでなく、精神的・社会的な影響も大きなものになります。
経済面では、弁護士費用が数百万円から数千万円かかります。訴訟は長期化することが多く、その間の精神的負担も無視できません。敗訴した場合の賠償金は、会社が受けた損害の規模に応じて決まるため、数千万円から数億円に達することもあります。
社会的な面では、訴訟が公開情報となることで、他の企業の社外取締役や顧問職への影響が出る可能性があります。個人のキャリアに長期的なダメージを与えるリスクもあります。
D&O保険に加入していれば、一般的に弁護士費用と賠償金の両方が補償対象となります。経済的なリスクを保険で軽減できるかどうかが、社外取締役としてのキャリアを守る上で重要なポイントになります。

社外取締役として訴えられた場合、どのくらいの費用がかかりますか?
弁護士費用だけで数百万円から数千万円、敗訴した場合の賠償金は数千万円から数億円に達することもあります。社外取締役の報酬が年間数百万円程度であることを考えると、1回の訴訟で報酬の何十倍もの費用が発生するリスクがあります。D&O保険はこうした費用に備える有効な手段の一つです。
日本における訴訟環境の変化
以前の日本では、役員個人への訴訟は非常に少なく、アメリカのような訴訟文化とは無縁と考えられていました。しかし情報化社会の進展により、この状況は大きく変わっています。
役員個人も訴えられるということが広く知られるようになり、弁護士の側でも会社と役員個人の両方を訴訟の対象とするアプローチが一般的になりつつあります。会社の資産と役員個人の資産の両方を狙って二重に訴訟するケースが増えています。
退職代行サービスの普及も、訴訟リスク増加の一因です。退職代行を利用した従業員が弁護士を紹介され、ハラスメントや未払い残業を理由に会社と役員個人を訴えるケースが増加しています。社外取締役であっても管理監督責任を問われる可能性があるため、この傾向は無視できません。
こうした環境の変化を踏まえると、社外取締役として就任する際にD&O保険の有無を確認することは、もはや常識と言えます。D&O保険がない会社への就任を断るケースについてはD&O保険なしの会社は社外取締役を断られる時代で詳しく取り上げています。
個人責任から身を守るための3つの防衛策
社外取締役が個人責任のリスクを適切に管理するための防衛策は3つあります。
1つ目はD&O保険の確認です。就任する会社がD&O保険に加入しているか、補償額は十分か、自分が補償対象に含まれているかを確認します。保険の内容は基本的にパッケージ化されており、賠償金と弁護士費用(防御費用)がセットで補償されます。確認すべき具体的な項目については社外取締役が確認すべきD&O保険の5つのポイントで解説しています。
2つ目は意思決定プロセスの記録です。取締役会での議論の内容、専門家への相談履歴、判断に至った根拠を記録として残しておきます。万が一経営判断のミスを問われた場合でも、合理的なプロセスを経ていたことを示せれば賠償責任を免れる可能性が高まります。
3つ目は積極的な監督機能の発揮です。取締役会で疑問があれば質問し、問題があれば異議を述べることが重要です。議事録に自分の発言が記録されることが、将来の防衛策になります。就任前後の実践的なアドバイスについては社外取締役を引き受ける前に知るべきアドバイスもあわせてお読みください。
この記事のまとめ
- 「名前を貸しただけ」の社外取締役でも会社法上の取締役としての責任を負う
- 監視義務違反、利益相反取引、開示情報の虚偽記載、ハラスメントの管理監督責任で訴えられるケースがある
- D&O保険は弁護士費用と賠償金の両方を補償対象としており、個人資産を守る有効な手段の一つ
- 意思決定プロセスの記録と積極的な監督機能の発揮が、訴訟時の防衛策となる D&O保険の無料相談はこちら
名前を貸しただけの社外取締役でも責任を問われますか?
名前を貸しただけであっても、会社法上の取締役としての義務は発生します。取締役会に出席しながら異議を述べなかった場合、決議に賛成したとみなされ責任を問われる可能性があります。
社外取締役が個人で賠償金を支払ったケースはありますか?
D&O保険に未加入の場合、賠償金は個人の資産から支払う必要があります。賠償額は数千万円から数億円に及ぶこともあり、個人の貯蓄だけでは対応が難しいケースも少なくありません。
社外取締役が責任を回避するにはどうすればよいですか?
取締役会で十分な情報収集と合理的な判断を行い、そのプロセスを記録として残すことが重要です。加えてD&O保険への加入で万が一の経済的リスクに備えることも有効です。
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