社外取締役が確認すべきD&O保険の5つのポイント
この記事のポイント
社外取締役として就任する際にD&O保険の補償内容で確認すべきポイントを解説します。補償額の妥当性、補償範囲、免責事項、保険期間、会社補償の有無を事前に確認し、個人資産を守るための備えをしましょう
社外取締役として就任する際に、D&O保険の有無だけでなく補償内容を詳しく確認することが自分の身を守る第一歩です。補償額が不十分だったり、免責事項に該当するリスクがあったりすると、保険に加入していても実質的に保護されません。就任前に確認すべき5つのポイントを解説します。

ポイント1 補償額は十分か
D&O保険で最も重要な確認事項は補償額の妥当性です。補償額が会社のリスクに対して不足していると、いざという時に十分な補償を受けられない可能性があります。
補償額の設定基準は会社の規模によって異なります。
| 企業規模 | 一般的な補償額 |
|---|---|
| 非上場中小企業 | 1億円から5億円 |
| 上場企業 | 10億円以上 |
補償額の判断基準は、1回の損失でどの程度の損害が出てしまうかです。数億円の損失が想定される規模であれば、それをしっかりカバーできる補償額に設定すべきです。1億円では物足りない場合もあります。社外取締役のリスクの全体像については社外取締役の就任前に知るべきリスクと備えをご覧ください。
特にIPO準備中の企業は、上場後に株主からの訴訟リスクが飛躍的に高まるため、上場前の段階から上場後を見据えた補償額の設定が必要です。IPO企業の補償額の決め方についてはIPO企業のD&O保険の補償額と範囲の決め方で解説しています。
ポイント2 補償範囲の内容
D&O保険の補償範囲は基本的にパッケージ化されており、主に3つの要素で構成されています。
1つ目は損害賠償金です。裁判で確定した賠償金や、和解による支払金が対象になります。役員個人が負担すべき金額を保険がカバーします。
2つ目は争訟費用(防御費用)です。弁護士費用、訴訟関連費用、証拠収集費用などが含まれます。勝訴した場合でも弁護士費用は発生するため、この補償は非常に重要です。
3つ目は会社補償の填補です。会社が先に役員に補償した場合、その費用を保険で填補する仕組みです。
これらがセットで加入するのが一般的ですが、保険商品によって補償の範囲や条件に違いがある場合もあります。就任前に具体的な補償範囲を書面で確認しておくことが重要です。

D&O保険の補償は賠償金だけですか?弁護士費用もカバーされますか?
D&O保険は賠償金と弁護士費用の両方をカバーします。基本的にパッケージ化されており、賠償金と防御費用(弁護士費用、訴訟費用)がセットで補償されます。むしろ弁護士費用は訴訟の初期段階から発生するため、最初に活用される補償であることが多いです。
ポイント3 免責事項の確認
D&O保険にはどのような場合に補償されないかを定めた免責事項があります。就任前にこの免責事項を理解しておくことが重要です。
一般的な免責事項として以下のようなものがあります。
- 役員本人による故意の不正行為や犯罪行為
- 役員自身が加害者となるハラスメント(セクハラ、パワハラ)
- 保険契約日より前に認識していた問題に起因する請求
- 役員間の訴訟(一部の保険商品)
特に注意すべきなのはハラスメントに関する免責です。社内でハラスメントが発生し、管理監督責任として社外取締役が訴えられた場合はD&O保険の補償対象になります。しかし、社外取締役本人がハラスメントの加害者だった場合は補償されません。
悪質な故意性が認められるケースも補償対象外です。明らかに違法と知りながら行った行為については、保険の保護を受けることはできません。実際に社外取締役が個人責任を問われたケースについては社外取締役が個人責任を問われた事例と対策で解説しています。
ポイント4 保険期間と退任後の補償
D&O保険の保険期間と、退任後の補償がどうなるかを確認することも重要なポイントです。
D&O保険は通常1年契約で、毎年更新されます。注意すべきは、保険が更新されなかったり、更新時に条件が変更されたりする可能性があることです。
また、社外取締役を退任した後に訴訟が提起されるケースもあります。在任中の経営判断に対する責任追及は、退任後に行われることも珍しくありません。多くのD&O保険には退任後の補償期間が設定されていますが、その期間と条件を事前に確認しておく必要があります。
保険契約の更新や変更は会社側が管理するため、社外取締役として保険の継続状況を定期的に確認する仕組みを作っておくことが望ましいでしょう。在任中に保険が途切れていたということがないよう、更新時期を把握しておくことが大切です。
ポイント5 会社のリスク管理体制
D&O保険の補償内容の確認と併せて、会社のリスク管理体制も確認すべきです。保険はあくまで万が一の経済的リスクに対する備えであり、訴訟リスクそのものを減らすためには会社の体制整備も重要です。
確認すべきリスク管理体制は以下の通りです。
- 取締役会の議事録が適切に作成・保存されているか
- 重要な経営判断の際に専門家(弁護士、会計士など)の助言を得る体制があるか
- 社内にハラスメント相談窓口が設置されているか
- コンプライアンスに関する社内規定が整備されているか
取締役会での議論の記録は、万が一訴えられた場合の最大の防衛手段です。合理的なプロセスを経て経営判断に至ったことを示せれば、賠償責任を免れる可能性が高まります。

取締役会の議事録がしっかり管理されていない会社への就任は避けるべきですか?
議事録の管理体制は、就任の可否を判断する重要な材料です。議事録が適切に保存されていない場合、訴訟の際に「言った言わない」の争いになり、不利な状況に追い込まれます。就任前に議事録の管理体制について確認し、不十分であれば改善を求めた上で就任を判断すべきです。D&O保険がない会社への就任を断るケースが増えている背景についてはD&O保険なしの会社は社外取締役を断られる時代もあわせてお読みください。
補償額の見直しが必要なタイミング
D&O保険は加入して終わりではなく、会社の状況変化に応じて補償額を見直す必要があります。社外取締役として就任した後も、以下のタイミングでは補償額の妥当性を改めて確認してください。
1つ目はIPO(上場)の前後です。上場後は不特定多数の投資家が株主になるため、訴訟リスクが飛躍的に高まります。上場前と同じ補償額では不十分となるケースが多いです。
2つ目はM&Aの実施時です。M&Aに伴う経営判断が後から問題視されるケースがあり、損害額も大きくなる傾向があります。入念な下調べをしていなかったことが指摘されると、役員個人の責任が問われます。
3つ目は事業規模の大幅な変化です。売上や従業員数が大幅に増加した場合、それに応じてリスクも拡大するため、補償額の増額が必要になることがあります。
社外取締役として、取締役会でD&O保険の見直しを議題に上げることも重要な役割の一つです。
確認のタイミングと方法
D&O保険の確認は、就任の打診を受けた段階で行うのが理想的です。就任を承諾した後では交渉力が弱くなるため、就任の条件としてD&O保険の内容を提示してもらいましょう。
具体的な確認方法として、以下の書類の提出を依頼します。
- D&O保険の証券コピー(補償額、補償範囲、免責事項が確認できるもの)
- 保険の付保状況に関する取締役会決議の議事録
- 保険更新時の通知体制に関する説明
これらの書類を確認し、不明点があれば保険の代理店や保険会社に直接問い合わせることも検討してください。社外取締役として就任する以上、自分の身を守る情報は自分で確認する姿勢が重要です。
なお、複数の会社から社外取締役の就任を打診された場合は、D&O保険の補償内容を比較材料の一つとして活用することもできます。補償体制が充実している会社を選ぶことは、リスク管理として合理的な判断です。就任前後の実践的なアドバイスについては社外取締役を引き受ける前に知るべきアドバイスも参考にしてください。
この記事のまとめ
- 補償額が会社のリスク規模に見合っているかを最優先で確認する
- 損害賠償金と争訟費用の両方がカバーされているかを確認する
- 免責事項を理解し、自分が就任する企業の状況に照らして問題がないか検証する
- 退任後の補償期間と会社のリスク管理体制も併せて確認する D&O保険の無料相談はこちら
D&O保険で最も重要な確認ポイントは何ですか?
補償額の妥当性です。会社の規模や時価総額に対して補償額が不足していると、実際の賠償請求に対応できません。1回の損失で想定される損害額をカバーできる設定が必要です。
D&O保険で補償されないケースはありますか?
役員本人による故意の不正行為や犯罪行為、役員自身が加害者となるハラスメントなどは補償対象外です。管理監督責任として問われた場合は補償されます。
社外取締役が退任後も補償は続きますか?
多くのD&O保険には退任後の補償期間が設定されています。在任中の行為に起因する訴訟が退任後に提起される場合もあるため、退任後の補償期間を確認することが重要です。
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