飲食店の火災保険|補償内容と保険料の仕組み
この記事のポイント
飲食店の火災保険は住宅用とは別の企業総合保険で加入し、調理場の火災リスクに応じて保険料率が決まります。休業補償や賠償責任保険を組み合わせることで事業を守れます。
飲食店を経営するうえで、火災保険への加入は欠かせません。調理場では毎日火を使いますし、油を扱う業態であれば火災のリスクはさらに高まります。「住宅と同じ火災保険に入ればいいのでは?」と考える方もいますが、実は飲食店の火災保険は住宅用とはまったく別の商品です。
結論として、飲食店の火災保険は企業総合保険で加入し、調理場リスクに応じた火災補償に加えて休業補償と賠償責任保険を組み合わせることで事業を守ることができます。この記事では、飲食店オーナーが知っておくべき火災保険の基礎知識から、補償の選び方、保険料の仕組みまで専門家への取材をもとに解説します。

飲食店に火災保険が必要な理由
飲食店は、他の業種と比べて火災リスクが高い事業です。調理場ではガスコンロや揚げ物用のフライヤーなど、火を扱う設備が常に稼働しています。万が一の火災が発生すれば、建物や設備の損害だけでなく、営業停止による売上の喪失、近隣への賠償問題など、経営に甚大なダメージを与えます。
実際に、消防庁の統計によると飲食店は建物火災の出火原因として上位に挙がっています。
令和5年における出火原因の第1位は「たばこ」で3,480件、第2位は「たき火」で3,209件、第3位は「こんろ」で2,792件となっている
こんろ火災は住宅だけでなく飲食店でも多く発生しており、業務用の高火力なこんろを使う飲食店ではリスクがより高くなります。火災が発生した場合の損害は、建物修繕費、什器備品の買い替え、内装の復旧、休業中の固定費、近隣への賠償と多岐にわたります。
特に飲食店の場合は、火災による直接的な損害に加えて間接的な被害も深刻です。火災で営業を停止している間も家賃や人件費といった固定費は発生し続けますし、常連のお客様が他の店舗に流れてしまうことで復旧後の集客にも影響が出ます。こうした複合的なリスクに備えるために、火災保険への加入は飲食店経営の基本と言えます。

個人で経営している小さな飲食店でも火災保険は必要ですか?
火災保険の基本的な仕組みについては火災保険とはで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
飲食店の火災保険は住宅用とは別商品
飲食店オーナーが最初に理解しておくべきポイントは、飲食店向けの火災保険は住宅用火災保険とは別の商品体系であるということです。
企業総合保険(事業用火災保険)とは
住宅用の火災保険は個人の住まいを守るための商品ですが、店舗や事務所には「企業総合保険」と呼ばれる事業者向けの火災保険で加入します。企業総合保険は、火災による建物・設備の損害だけでなく、事業活動に伴うさまざまなリスクを包括的に補償できるのが特徴です。
| 比較項目 | 住宅用火災保険 | 企業総合保険 |
|---|---|---|
| 対象 | 居住用住宅 | 店舗・事務所・倉庫 |
| 保険の対象物 | 建物・家財 | 建物・什器備品・商品 |
| 休業補償 | なし | セット可能 |
(※保険会社や商品によって名称・補償内容は異なります)
物件区分による違い
火災保険の世界では、建物の使用用途によって「住宅物件」と「一般物件」に大きく分類されます。飲食店は「一般物件」に分類され、住宅物件よりも保険料率が高く設定されています。
- 住宅物件: 居住専用の住宅が対象で、保険料率が比較的低い
- 一般物件: 店舗、事務所、倉庫などが対象で、業種に応じた保険料率が適用される
一般物件の中でも業種によってリスク評価が異なり、火を使わない事務所は保険料率が低く、火を日常的に扱う飲食店は保険料率が高くなります。同じ「一般物件」でも業種によって保険料に大きな差が出ることがあるため、飲食店オーナーは自店舗の業態が保険会社にどう評価されるかを理解しておくことが重要です。
併用住宅の場合はどうなるか
自宅の1階を飲食店、2階を住居として使用するいわゆる「併用住宅」の場合、住宅部分の面積割合によって保険の取り扱いが変わります。住宅部分が一定以上の面積を占めていれば個人用の火災保険で加入できる場合もありますが、テナントビルに入居している専用店舗や、建物全体を店舗として使用している場合は企業総合保険での加入が必須です。

自宅の1階でラーメン店を営業しています。住宅用の火災保険で大丈夫ですか?
店舗の火災保険の基本については店舗の火災保険で詳しく解説しています。
飲食店特有のリスクと必要な補償
飲食店には他の業種にはない特有のリスクがあります。保険を選ぶ際には、これらのリスクを正しく理解して必要な補償を揃えることが重要です。
調理場の火災リスク
飲食店最大のリスクは、調理場から発生する火災です。ガスコンロ、フライヤー、オーブンなど火を使う設備が集中しており、油脂を扱う調理も日常的に行われます。換気ダクトに油脂が蓄積して引火するケースや、揚げ物中の油の過熱による出火など、飲食店ならではの火災原因は多岐にわたります。
水漏れ・設備故障のリスク
飲食店では大量の水を使用します。排水管の詰まりや老朽化による水漏れ、食洗機や製氷機の故障による漏水など、水回りのトラブルが起きやすい環境です。テナントビルの上階で営業している場合、階下のテナントに水漏れ被害を与えてしまうリスクもあります。
水漏れは火災ほど大規模な被害にはなりにくいものの、発生頻度が高いのが特徴です。排水グリストラップの詰まりや、冷蔵庫の排水トレイからの溢水など、飲食店特有の水回りトラブルは日常的に起こり得ます。階下への漏水は施設賠償責任保険でカバーできますが、自店舗の什器備品が水濡れで損傷した場合は火災保険の水漏れ補償で対応することになります。
盗難リスク
飲食店はレジに現金を置いていることが多く、閉店後の侵入盗の被害に遭うケースがあります。特に繁華街にある店舗や、夜間に無人になる店舗では盗難対策が重要です。企業総合保険では盗難補償を付帯することで、現金や什器備品の盗難被害に備えることができます。
食中毒リスクと生産物賠償責任
飲食店が提供した料理で食中毒が発生した場合、被害者への損害賠償責任を負う可能性があります。このリスクに備えるのが生産物賠償責任保険(PL保険)です。企業総合保険の特約として付帯できる場合もあれば、別途単独の保険として加入するケースもあります。

食中毒が発生した場合、火災保険で補償されるのですか?

休業補償の重要性
飲食店にとって、休業補償は火災保険と同じくらい重要な補償です。火災や自然災害で営業ができなくなった場合、売上はゼロになりますが、固定費は発生し続けます。
休業中も発生し続ける固定費
飲食店が営業を停止しても、以下のような固定費は止められません。
- 家賃(テナント料)
- 従業員の給与・社会保険料
- リース料(厨房機器、POSレジなど)
- 借入金の返済
- 各種保険料
例えば月の固定費が 150 万円の飲食店が 3 か月間の休業を余儀なくされた場合、それだけで 450 万円の損失になります。売上が途絶えた状態でこの金額を自己資金だけで賄うのは、多くの飲食店にとって非常に厳しい状況です。
休業補償の算出方法
休業補償の保険金額は、一般的に店舗の売上高や粗利益をベースに算出されます。保険会社に申告する情報として、直近の決算書や確定申告書が求められることがほとんどです。
- 補償の基礎: 粗利益(売上高から変動費を差し引いた金額)
- 支払い対象期間: 復旧に必要な合理的期間(約定日数)
- 算出に必要な書類: 決算書、確定申告書、売上帳簿など
賠償責任保険の種類と選び方
飲食店では、さまざまな場面で第三者に損害を与えてしまう可能性があります。賠償責任保険は、そうした賠償リスクに備えるための重要な保険です。
借家人賠償責任保険
テナントとして飲食店を営業している場合に重要となるのが借家人賠償責任保険です。借りている物件で火災などを起こし、建物に損害を与えた場合、オーナーに対する賠償責任をカバーします。
テナント契約では、借家人賠償責任保険への加入を条件としているケースがほとんどです。飲食店は火を使う業種のため、オーナー側も借主の保険加入を特に重視します。
施設賠償責任保険
店舗の設備や管理の不備によって、お客様や通行人に損害を与えた場合に備える保険です。
具体的には以下のようなケースで補償されます。
- 店内の床が濡れていてお客様が転倒しケガをした
- 店舗の看板が落下して通行人にケガをさせた
- 店内の設備が故障してお客様の持ち物を破損させた
- 店舗から出火して隣接する建物に延焼した
生産物賠償責任保険(PL保険)
飲食店が提供した料理が原因で食中毒が発生した場合や、異物混入によってお客様にケガをさせた場合の賠償責任をカバーする保険です。飲食店にとっては施設賠償責任保険と並んで重要度の高い補償になります。

施設賠償責任保険とPL保険はどちらかだけでよいですか?
賠償責任保険の保険料算出基礎
賠償責任保険の保険料は、火災保険とは異なる基礎で算出されます。
| 保険の種類 | 算出の基礎 |
|---|---|
| 火災保険(建物) | 建物の面積・構造 |
| 賠償責任保険 | 年間売上高 |
火災保険の保険料が建物の面積や構造をベースに算出されるのに対し、賠償責任保険の保険料は年間の売上高をベースに算出されるのが一般的です。売上が大きい店舗はそれだけお客様と接する機会が多く、リスクも比例して高まるという考え方に基づいています。
保険料の目安と算出方法
飲食店の火災保険料がどのように決まるのか、その仕組みと目安を解説します。
保険料率に影響する要素
飲食店の火災保険料率は、以下の要素で決まります。
- 業種(調理内容によるリスク差)
- 建物の構造(鉄骨造、木造など)
- 建物の面積(延床面積)
- 所在地
- 補償内容と保険金額
- 免責金額の設定
業種によるリスク差と保険料率
飲食店と一口に言っても、業態によって火災リスクは大きく異なります。
- リスクが高い業態: 焼肉店、天ぷら専門店、ラーメン店、中華料理店(揚げ物や強火調理が多い)
- リスクが中程度の業態: 和食店、イタリアン、居酒屋(調理全般に火を使用する)
- リスクが比較的低い業態: カフェ、バー、スイーツ店(火の使用が限定的)
保険料率の差は業種だけでなく、事務所と比較するとさらに顕著です。事務所は火を使わないため保険料率が低く、飲食店の保険料率とは大きな開きがあります。
保険料を抑えるための工夫
飲食店の火災保険料は住宅用と比べて高額になりがちですが、以下の工夫で保険料を抑えることが可能です。
- 免責金額を適切に設定する(小さな損害は自己負担にすることで保険料が下がる)
- 不要な補償を外す(高台の店舗であれば水災補償を外すなど)
- 複数の保険会社で見積もりを比較する
- 長期契約の割引を活用する
- 防火設備の整備状況を保険会社に伝える
火災保険の見積もり方法については火災保険の見積もりで詳しく解説しています。
飲食店の火災保険の選び方
飲食店に適した火災保険を選ぶために押さえておきたいポイントを解説します。
補償内容の優先順位を決める
飲食店にとって優先度が高い補償を整理すると、以下のようになります。
- 優先度が高い: 火災・落雷・爆発の補償(基本補償)
- 高い優先度: 借家人賠償責任保険(テナントの場合は加入が求められることが多い)
- 高い優先度: 施設賠償責任保険(来店客への賠償に備える)
- 高い優先度: 休業補償(営業停止時の固定費をカバー)
- 検討推奨: 生産物賠償責任保険(食中毒リスクへの備え)
- 検討推奨: 盗難補償(現金や什器備品の盗難に備える)
保険金額の設定方法
保険金額は適切に設定することが重要です。過小に設定すると十分な保険金が受け取れず、過大に設定すると無駄な保険料を支払うことになります。
- 建物: 再調達価額(同等の建物を新築する費用)で設定
- 什器備品: テーブル、椅子、厨房機器、レジなどの再調達価額の合計
- 商品・在庫: 平均的な在庫量をベースに設定
- 内装造作: テナントが施した内装工事費用

内装にお金をかけた飲食店ですが、内装も保険の対象になりますか?
複数社で見積もりを取る
企業総合保険は住宅用の火災保険以上に、保険会社ごとの保険料差が大きい傾向があります。同じ補償内容でも保険会社によって数万円の差が出ることは珍しくありません。
最低でも 2 社から 3 社は見積もりを取って比較することをおすすめします。保険代理店に相談すれば、複数社の見積もりを一度に取ることが可能です。
地震リスクへの備え
飲食店の火災保険(企業総合保険)では、地震・噴火・津波による損害は補償の対象外です。住宅であれば「地震保険に関する法律」に基づく地震保険に加入できますが、事業専用の建物は居住用の地震保険の対象外となります。
飲食店で地震リスクに備えるためには、企業総合保険に「地震危険担保特約」を付帯する方法があります。保険料は割高になりますが、地震による火災や建物の損壊に備えるためには検討の価値があります。なお、地震危険担保特約の補償範囲や支払い条件は保険会社によって異なりますので、詳細は各保険会社にご確認ください。
飲食店の火災保険に加入する際の注意点
最後に、飲食店が火災保険に加入する際によくある失敗や注意点をまとめます。
告知内容を正確に伝える
保険の申し込み時には、業種や調理内容、建物の用途などを正確に告知する必要があります。告知内容に誤りがあると、万が一の際に保険金が支払われないリスクがあります。
- 業種(具体的な調理内容を含む)
- 建物の構造と面積
- テナントか自己所有か
- 防火設備の有無(スプリンクラー、消火器、自動火災報知機など)
保険の対象物に漏れがないか確認する
飲食店は什器備品の種類が多いため、保険の対象物に漏れが生じやすいです。厨房機器だけでなく、客席のテーブルや椅子、空調設備、照明器具、看板なども保険の対象に含めているか確認しましょう。
契約更新時に補償内容を見直す
飲食店は開業後にメニューを変更したり、設備を追加したりすることが少なくありません。新たにフライヤーを導入した場合や、内装をリニューアルした場合は、保険の内容も見直す必要があります。契約更新のタイミングで、現在の営業実態と保険内容が合っているか確認する習慣をつけましょう。
この記事のまとめ
- 飲食店の火災保険は住宅用とは別の企業総合保険で加入する
- 飲食店は調理場で火を使うためリスクが高く、保険料率も高めに設定されている
- 火災補償に加えて休業補償と賠償責任保険の組み合わせが経営を守るカギになる
- 賠償責任保険の保険料は年間売上高をベースに算出される
- 施設賠償責任保険とPL保険の両方で来店客への賠償リスクに備える
- 複数の保険会社で見積もりを比較し、業態に合った補償プランを選ぶことが大切
よくある質問
飲食店の火災保険料はどのくらいですか?
飲食店の火災保険料は店舗の面積、構造、立地、補償内容によって異なります。調理場で火を使うため住宅や事務所より保険料率が高く、年間数万円から数十万円程度が目安です。
飲食店に休業補償は必要ですか?
はい、強くおすすめします。火災や自然災害で営業停止になっても家賃や人件費などの固定費は発生し続けるため、休業補償がないと経営が立ち行かなくなるリスクがあります。
飲食店の火災保険と住宅用火災保険の違いは何ですか?
飲食店は企業総合保険(事業用火災保険)で加入します。住宅用火災保険とは商品体系が異なり、休業補償や賠償責任保険をセットできる点が大きな違いです。
テナントで飲食店を営業する場合も火災保険は必要ですか?
はい、必要です。建物はオーナーが保険をかけていますが、店舗内の什器備品や内装造作、借家人賠償責任はテナント側で保険に加入する必要があります。
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