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経営判断の失敗で役員が訴えられる頻度と実態

この記事のポイント

経営判断の失敗で役員個人が損害賠償を請求されるケースは日本では少ないものの増加傾向にあります。失敗そのものではなく「事前準備やプロセスの甘さ」が訴訟の原因になる実態を、D&O保険の専門家が解説します

経営判断の失敗で役員個人が損害賠償を請求されるケースは、日本では少ないものの増加傾向にあります。しかも訴えられる理由は「判断を間違えたから」ではなく、「判断に至るプロセスが甘かったから」です。

経営判断の失敗で役員が訴えられる頻度と実態を解説するイメージ

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。保険商品の詳細は各保険会社の約款や重要事項説明書をご確認ください。補償内容や保険料は保険会社・プラン・条件により異なります。

日本での訴訟件数は少ないが増加傾向にある

「経営判断を間違えたら、役員個人が訴えられる」と聞くと、多くの経営者は「それはアメリカの話だろう」と感じるかもしれません。実際、日本ではこれまで役員個人が経営判断の失敗を理由に訴えられるケースは非常に少ないのが現実でした。

しかし、その状況は変化しつつあるとの指摘があります。

平

日本は訴訟件数で見るとアメリカに比べて圧倒的に少ないですが、情報化社会でいろんな情報が世に出回り、役員個人も訴えられるということがわかってきています。弁護士もそれを活用して「取れるところから取っていきましょう」というスタンスが増えています。役員個人を訴えることがスタンダードになりつつあるのが現状です。

これまで日本では、企業のトラブルは「会社対会社」で解決するのが一般的でした。大きな損害が出ても、訴える先は会社であって役員個人ではないという考え方が主流でした。しかし近年、以下のような変化が進んでいると言われています。

  • 情報化社会により「役員個人も訴えられる」という事実が広まっている
  • 弁護士が会社と役員個人の両方を訴えるケースが増えている
  • 会社の資産を狙った訴訟と、役員個人の資産を狙った訴訟が同時に行われる
  • コーポレートガバナンスの強化により、役員の個人責任への意識が高まっている
マネサロくん
マネサロくん

日本では訴訟が少ないなら、そこまで心配しなくていいのでは?

「少ない」と「ゼロ」は全く違います。実際にD&O保険の保険金請求事例の中には、経営判断に関連する事案も存在しています。そして一度訴えられれば、勝訴しても弁護士費用は一般的に自己負担となるケースが多いです。数百万円から数千万円の弁護士費用を個人で負担する可能性を考えると、件数が少ないからといって無視できるリスクではありません。※弁護士費用の金額は案件の内容や期間によって異なります。弁護士費用の補償については役員が訴えられたときの弁護士費用と賠償額の相場で詳しく解説しています。

さらに注目すべきは、訴訟のトレンドが増加方向に進んでいるという点です。今後も増加傾向が続く可能性があると専門家は指摘しています。「今は大丈夫だから」ではなく、「これから増えるリスクに今から備えておく」という姿勢が経営者には求められています。

訴えられる原因は「失敗」ではなく「プロセスの甘さ」

経営判断の失敗で訴えられると聞くと、「判断を間違えた結果、会社に損害を与えたから」と考えがちです。しかし実態は異なります。D&O保険の専門家によると、訴訟の原因となるのは判断の結果ではなく、判断に至るプロセスの問題です。

平

失敗したから責任を負うということではなくて、過程が甘かったということで損害賠償請求されるケースが多いです。事前準備の甘さを指摘されて、役員個人の責任が問われるという流れが典型的です。

つまり、経営判断が結果的に失敗しても、判断に至るプロセスが合理的であれば、役員個人の責任が問われる可能性は低くなります。逆に、たとえ結果的に大きな損害が出なくても、判断プロセスに重大な不備があれば問題になりうるということです。

この「プロセスの甘さ」とは、具体的に以下のような状況を指します。善管注意義務の具体的な内容については善管注意義務違反の境界線を専門家が解説で詳しく解説しています。

  • 十分な事前調査を行わずに重要な判断を下した
  • 専門家の意見を取り入れずに独断で決定した
  • リスクが明らかに高い取引を十分な検証なしに実行した
  • 判断の根拠となるデータや資料を保存していなかった
  • 取締役会での議論を経ずに重要な意思決定を行った
  • リスクを認識していたのに対策を講じなかった

これらのプロセスの不備は、善管注意義務違反として追及される可能性があります。善管注意義務とは、取締役が「善良な管理者として注意を払って職務を遂行する義務」のことで、この義務に違反した場合は損害賠償責任を負います。

善管注意義務違反の判断には明確な線引きがなく、ケースバイケースで判断されます。しかし「合理的な判断のもとに記録を残す」というプロセスを徹底することで、義務違反のリスクを大幅に低減できます。

訴えられやすい経営判断の具体例

では、実際にどのような経営判断が訴訟のリスクを高めるのでしょうか。D&O保険の専門家によると、特に損害が大きくなりやすいのは以下のような場面です。

M&Aの失敗

M&Aは一度の取引で数千万円から数十億円の資金が動きます。買収先企業の財務状況や事業リスクを十分に調査せずに買収を実行し、結果として大きな損失が発生した場合、役員個人の判断責任が問われる可能性があります。実際の請求事例についてはD&O保険の経営判断に関する請求事例と対策をご覧ください。

特に問題となるのは、デューデリジェンス(買収前の詳細調査)が不十分だったケースです。買収先の隠れた負債や将来のリスクを十分に調べなかった場合、「下調べをしっかりしていなかった」として善管注意義務違反を指摘されるリスクがあります。

M&Aを実行する際は、弁護士や会計士などの外部専門家によるデューデリジェンスを実施し、その結果を取締役会で共有した上で判断することが重要です。そして、調査の内容と判断のプロセスを記録として保存しておくことが、万が一の訴訟に備える最大の防御手段となります。

平

M&Aの失敗や取引先の倒産は損害が大きくなりやすいです。こういった大きなお金が動く判断については、徹底的に事前調査をしていただくことが重要です。

大口取引先の選定ミス

大口取引先が倒産して多額の債権が回収不能になった場合、「取引判断が甘かったのではないか」という追及を受ける可能性があります。特に以下の点が問題となります。

  • 取引先の信用調査を定期的に実施していたか
  • 取引先の経営状態の悪化を認識していたか
  • 認識していた場合、取引の縮小や担保の取得などの対策を講じていたか
  • 特定の取引先への依存度が高すぎなかったか

大口取引先との取引は、継続的に信用状態をモニタリングし、必要に応じてリスク分散の対策を講じておくことが求められます。取引先の経営状態の悪化を知っていたのに何の対策も取らなかった場合、「リスクを認識していたのに放置した」として責任を問われる可能性があります。

リスクの高い投資判断

明らかにリスクの高い投資先に、十分な検証をせずに投資を実行したケースも訴訟のリスクが高まります。特に、専門家の助言を求めずに役員の独断で決定した場合は、プロセスの不備として指摘されやすくなります。

投資判断においては、投資先のリスク評価を行い、期待されるリターンとリスクのバランスを検討し、撤退基準を事前に設定しておくことが望ましいです。これらの検討過程を資料として残しておくことで、合理的な判断であったことを後から証明できます。

マネサロくん
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日常的な経営判断でも訴えられることはありますか?

日常的な小さな判断で訴えられるケースは多くありませんが、可能性がゼロとは言い切れません。特にハラスメント問題の管理を怠った場合は、経営判断の問題というよりも管理監督責任として訴えられるケースがあります。D&O保険の専門家によると、実際にはハラスメントの管理監督責任を問われるケースが最も多いとのことです。管理職のハラスメントを認識していたのに対処しなかった、従業員からの通報があったのに対応しなかったといったケースで、役員個人の責任が追及されています。

なぜ日本でも訴訟リスクが高まっているのか

日本は欧米に比べて訴訟文化が根付いていないと言われてきました。しかし、いくつかの社会変化により、役員個人への訴訟リスクは高まる傾向にあります。その背景にある主な要因を解説します。

情報の普及と権利意識の向上

インターネットやSNSの普及により、「役員個人を訴えることができる」という情報が広く知られるようになりました。これまで「会社を訴えるしかない」と思っていた株主や取引先、従業員が「役員個人も訴えられる」と知り、訴訟に踏み切るケースが増えています。

法律に関する情報へのアクセスが容易になったことで、泣き寝入りしていた被害者が声を上げるようになったとも言えます。この流れは今後さらに進む可能性があります。

弁護士による積極的な対応

弁護士側も、会社だけでなく役員個人を訴訟対象に含めるケースが増えています。これは、会社の資産だけでなく役員個人の資産からも回収を図るという戦略的な判断です。二重に訴訟することで、回収できる金額を最大化しようとする動きが広がっています。

退職代行サービスの普及により、退職した従業員から弁護士を通じて役員個人が訴えられるケースも増えています。退職の際にハラスメントや未払い残業の問題が弁護士に相談され、そこから訴訟に発展するパターンです。D&O保険の専門家によると、この傾向は圧倒的に増えているとのことです。

コーポレートガバナンスの強化

上場企業を中心にコーポレートガバナンスの強化が進む中、役員個人の責任を明確にする流れが広がっています。コーポレートガバナンス・コードではD&O保険の導入が推奨されており、社外取締役がD&O保険のない会社への就任を断るケースも出ています。

この流れは非上場企業にも影響を及ぼしつつあり、中小企業であっても役員の個人責任を意識した経営が求められるようになっています。

株主構成の多様化

かつては同族経営やオーナー企業が多かった日本の中小企業でも、共同経営者や外部投資家が株主として関与するケースが増えています。株主構成が多様化すると、株主間の利害対立が起きやすくなり、株主代表訴訟のリスクも高まります。

訴えられた場合の経済的インパクト

経営判断の失敗で訴えられた場合、役員個人が負担する金額はどの程度になるのでしょうか。

項目金額の目安
弁護士費用数百万円から数千万円
損害賠償金数千万円から数億円

注意すべき点がいくつかあります。

まず、たとえ勝訴したとしても弁護士費用は基本的に自己負担です。訴訟に勝っても数百万円から数千万円の出費が発生するのです。敗訴すれば、さらに損害賠償金の支払いが加わります。

次に、訴訟には時間がかかります。数年にわたって訴訟が続くケースも珍しくなく、その間の精神的な負担も無視できません。経営に集中すべき時間とエネルギーが訴訟に奪われることで、会社の経営にも悪影響が出ます。

平

個人の資産で対応できるレベルを超えていることがほとんどです。会社には会社の資産を狙って訴訟し、役員には役員個人の資産を狙って訴訟するという二重の訴訟が行われることもあります。

役員報酬は年間数百万円から数千万円であっても、一度の訴訟で高額の賠償を求められる可能性があります。※賠償額は案件ごとに異なります。この非対称なリスクを認識しておくことが、まず重要です。成功しても利益は会社のものですが、失敗した場合のリスクは個人に降りかかるという構造を理解しておく必要があります。

プロセスを記録することで責任を問われにくくなる

ここまでリスクの話が続きましたが、適切な対策を講じることでリスクを軽減することが可能です。最も重要なのは、経営判断に至るプロセスを記録として残しておくことです。

合理的なプロセスを経て判断に至ったことを示すことができれば、たとえ結果的に損害が発生しても、役員個人が賠償責任を問われるリスクの軽減につながります。具体的な意思決定プロセスの構築方法は経営判断で責任を問われないための意思決定プロセスで解説しています。

平

最終的に言った言わないの話になると、どうしても不利な状況になります。経営判断に至るまでにどういった議論がなされたのか、専門家は関わっていたのか、議事録はあるのか。こういった記録が後々、役員個人を守るカードになります。合理的なプロセスで判断に至ったことを示せれば、賠償責任を問われにくくなると考えられます。

記録すべき項目

記録として残すべき項目は以下の通りです。これらの資料を体系的に保存しておくことで、万が一の訴訟時に自分の身を守ることができます。

  • 取締役会の議事録(出席者、議題、議論の内容、反対意見、決議結果)
  • 判断の根拠となった調査データや分析資料
  • 外部専門家(弁護士、会計士、コンサルタントなど)への相談記録
  • リスク評価の内容と対策の検討過程
  • 代替案の検討記録
  • 判断後のモニタリング記録

記録の保存を社内の仕組みにする

個人の努力に頼るのではなく、「重要な経営判断の記録を残す」ことを社内の仕組みとして制度化しましょう。例えば、一定の金額を超える投資判断や取引の開始には、所定のフォーマットで検討記録を作成するルールを設けることで、記録漏れを防ぐことができます。

万が一、経営判断のミスを問われたときに「こういう合理的なプロセスで判断に至りました」と示せれば、賠償責任を問われにくくなると考えられます。記録を残すことは、将来の自分を守るための備えです。

D&O保険で経済的リスクに備える

プロセスの記録は重要な防御手段ですが、訴訟リスクを完全にゼロにすることはできません。訴訟を起こされること自体は防げませんし、勝訴しても弁護士費用は自己負担です。万が一訴えられた場合の経済的リスクをカバーするために、D&O保険(会社役員賠償責任保険)への加入が有効です。

D&O保険は、一般的に役員個人に対する損害賠償金と弁護士費用の両方を補償対象としています。経営判断の失敗を理由に訴えられた場合でも、悪質な故意性が認められない限り、保険の補償を受けられる場合が多いです。※補償範囲は保険会社・プラン・条件によって異なります。

非上場の中小企業であれば、年間数十万円程度から加入できるケースもあります。1億円から5億円程度の補償額を設定するのが一般的とされています。※保険料・補償額は会社の規模や業種、条件によって異なります。

保険料は会社が負担するのが一般的で、会社の経費として処理できます。役員個人の出費が増えるわけではありません。

マネサロくん
マネサロくん

D&O保険に入っていれば、プロセスの記録は不要ですか?

D&O保険とプロセスの記録は、それぞれ異なる役割を果たします。プロセスの記録は訴訟に勝つための証拠であり、D&O保険は訴訟にかかる経済的負担を軽減する手段です。両方を組み合わせることで、経営判断のリスクを総合的に管理できます。どちらか一方だけでは不十分です。

リスクを恐れず適切に管理する

経営判断の失敗で訴えられるリスクがあるからといって、攻めた判断を避けるべきではありません。重要なのは、リスクを避けることではなく適切に管理することです。

平

リスクを避けるというよりは、適切に管理するということに重点を置いてほしいです。意思決定までのプロセスを保存しておくこともそうですし、D&O保険に入って万が一の経済的リスクに対処するということも含めて、リスクを軽減することで本来取るべき意思決定に集中してもらう。そういう環境を整えることが大事です。

適切なリスク管理とは、以下の3つを実践することです。

  • 意思決定プロセスを合理的に行い、その記録を残す
  • 重要な判断の前に専門家の助言を求め、十分な事前調査を行う
  • D&O保険に加入して、万が一の経済的リスクに備える

この3つが揃っていれば、攻めた経営判断もリスクを恐れずに行うことができます。経営者が訴訟リスクを気にして消極的な判断ばかりするほうが、会社にとっては大きなリスクです。成長機会を逃し、競合に後れを取り、結果として会社の価値を毀損してしまう。それこそが、経営者が最も避けるべき事態ではないでしょうか。

D&O保険の専門家は、サイバー保険とD&O保険を多くのお客さまに案内しているとのことです。上場しているかどうかに関係なく、役員個人にリスクがあるという点は変わらないからです。「うちは大丈夫」と思っている経営者こそ、まず専門家に相談してみることをおすすめします。D&O保険を活用して攻めの経営を実現する方法については攻めの経営判断と個人リスクを両立させる方法もあわせてお読みください。

この記事のまとめ

  • 経営判断の失敗で役員個人が訴えられるケースは日本では少ないが、情報化社会の影響で増加傾向にある
  • 訴えられる原因は判断の失敗そのものではなく、事前準備やプロセスの甘さにある
  • M&Aの失敗や大口取引先の倒産など、大きな損害が発生する場面で特にリスクが高まる
  • 意思決定プロセスの記録、十分な事前調査、D&O保険への加入の3つでリスクを適切に管理できる

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マネサロくん

経営判断の失敗で役員個人が訴えられるケースはどのくらいありますか?

日本ではアメリカと比べて少ないものの、近年は情報化社会の影響で役員個人を訴えるケースが増加傾向にあります。特にM&Aの失敗や大口取引先の倒産など、大きな損害が発生した場面で訴訟リスクが高まります。

経営判断のミスで訴えられるのはどのようなケースですか?

失敗そのものよりも、事前準備の甘さやプロセスの不備が訴訟の原因になります。十分な調査をせずにリスクの高い投資を実行した場合や、専門家の助言を求めなかった場合などが該当します。

役員が訴えられた場合の賠償金額はどのくらいですか?

弁護士費用だけで数百万円から数千万円、損害賠償金は数千万円から数億円になることがあります。個人の資産では対応が難しいレベルになることも少なくありません。※金額は案件の内容や規模によって大きく異なります。

経営判断に関する訴訟リスクに備えるにはどうすればよいですか?

意思決定プロセスの記録を残すこと、事前に十分な調査を行うこと、そしてD&O保険に加入して万が一の経済的リスクに備えることが重要です。

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