EPL保険でパワハラ訴訟に備える|補償範囲と相場
この記事のポイント
EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)は業務災害総合保険の特約として、パワハラ・セクハラ・不当解雇など人事労務トラブルによる賠償請求に備えます。賠償相場は数百万〜1,000万円、退職代行経由の請求事例も増加中。免責事項と加入時の注意点を専門家が解説します
EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)は業務災害総合保険の特約として、パワハラ・セクハラ・不当解雇など人事労務トラブルによる賠償請求に備える保険です。賠償相場は数百万円〜1,000万円で、近年は退職代行経由の請求事例も増えています。ハラスメント対策をしている企業ほど、ゼロにはできないリスクへの会社防衛策として活用価値が高まります。

EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)とは
EPL保険(Employment Practices Liability Insurance)は、雇用慣行に関するトラブルにより会社が賠償請求を受けた際に備える保険です。日本では業務災害総合保険の特約として提供されることが多く、人事労務リスクに対応した独立した補償領域として設計されています。
EPL保険が補償する「雇用慣行」とは、採用・配置・評価・処遇・解雇・退職など、雇用関係のあらゆる場面でのトラブルを指します。具体的には以下のようなケースが対象となります。
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント(マタハラ)
- 不当解雇
- 差別的取り扱い(性別・年齢・国籍など)
- 配置転換・配属トラブル
- 長時間労働
- 賃金未払い・残業代未払い

ハラスメント以外にも EPL保険でカバーされる範囲があるんですね。具体的にどのような場面で使われるのでしょうか?
EPL保険の補償内容

EPL保険で補償される費用は、賠償金そのものだけではありません。訴訟に至るまでの対応費用や、和解で終結した場合の和解金まで含まれるのが特徴です。
| 補償項目 | 内容 |
|---|---|
| 損害賠償金 | 裁判で確定した賠償金 |
| 和解金 | 訴訟外・訴訟内で合意した和解金 |
| 弁護士費用 | 訴訟対応・交渉対応の弁護士費用 |
| 訴訟対応費用 | 訴訟手続きに付随する各種費用 |
特に弁護士費用がカバーされる点は実務上の安心材料です。ハラスメント訴訟や不当解雇訴訟は、解決までに長期間を要することが多く、弁護士費用だけでも数百万円規模になることがあります。EPL保険があれば、会社の財務負担を軽減しながら適切な法的対応を続けられます。業務災害総合保険本体とEPL特約の補償構造の関係は業務災害総合保険とEPLの補償範囲|構造を解説で詳しく解説しています。
業務災害総合保険・EPL保険の検討は業務災害総合保険の専門スタッフへの相談はマネーサロンへからお問い合わせいただけます。
パワハラ・セクハラ訴訟の賠償額相場
EPL保険を検討する際に経営者が気にするのが、実際の賠償金の規模です。パワハラ・セクハラ訴訟の賠償相場は、事案により大きく異なりますが、一般的には数百万円〜1,000万円程度が中心的な水準とされます。
トラブルの母数も公的統計に表れています。厚生労働省の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争の相談で「いじめ・嫌がらせ」に関するものは60,125件と、12年連続で最多でした(出典: 「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(厚生労働省))。しかも2022年4月以降、法律上のパワーハラスメントに該当する相談は別枠で対応・集計されており、それを除いてもなおこの件数です。職場の人間関係トラブルは、どの会社にも起こりうる最も身近な労務リスクだといえます。
賠償額に影響する主な要素
| 要素 | 影響 |
|---|---|
| 加害行為の悪質性 | 悪質性が高いほど賠償額は上昇 |
| 被害者の精神的苦痛の程度 | 通院・休職など客観的な記録があると増額 |
| 会社の対応 | 適切な対応をしていれば賠償額が抑制される傾向 |
| 退職に至ったか | 退職した場合は逸失利益が上乗せ |
退職後に訴訟化する場合は、会社責任が確定するまでの期間に相当する逸失利益や未払い残業代が上乗せされることがあり、賠償額が膨らみやすくなります。

退職した社員から訴訟を起こされるケースが増えているという話を聞きました。具体的にはどんな流れで請求が来るのでしょうか?
賠償額が膨らみやすいパターン
- 長期間にわたる継続的なハラスメント
- 加害者が複数いる組織的なケース
- 会社が事実を認識していたのに放置していた
- 被害者がメンタル不調で長期休職・退職に至った
- 加害者が役員クラス(D&O保険対象とも重なる)
これらのパターンでは、賠償額が1,000万円を大きく超えるケースもあります。会社責任が認定されると、慰謝料に加えて逸失利益・未払い残業代・治療費などが累積するためです。
EPL保険の免責事項と注意点
EPL保険には明確な免責事項があります。加入時に正しく理解しておくことで、いざという時に「保険が下りなかった」というトラブルを防げます。
主な免責事項
| 免責対象 | 内容 |
|---|---|
| 故意性が強い行為 | 加害者が意図的に行ったハラスメント等 |
| 明らかな悪意 | 害意を持って行われた違法行為 |
| 犯罪行為 | 刑事事件に該当する行為 |
| 加入前から進行していた問題 | 加入時点で既に発生していたトラブル |
特に「加入前から進行していた問題」は実務上の重要なポイントです。たとえば、すでに社内でハラスメント問題が顕在化しており、当事者から請求が来る可能性が高い状態でEPL保険に加入しても、その案件は補償対象外となるのが一般的です。
加入時に整えておきたい体制
EPL保険の加入と同時に、社内の人事・労務管理体制を整備することが重要です。体制が整っていないと、いざ事故が起きた際に保険会社から「会社の管理に過失があった」として保険金支払いに影響することがあります。
- 就業規則・ハラスメント防止規程の整備
- ハラスメント相談窓口の設置
- 管理職向けハラスメント研修の定期実施
- 勤怠記録の正確な管理
- 退職面談の実施・記録保管
これらの体制整備は、ハラスメント発生率そのものを下げる効果もあるため、保険加入と合わせて進めるのが現実的です。
ハラスメント対策をしている企業の活用判断
「うちはハラスメント研修もやっているし、相談窓口も設置している。それでもEPL保険は必要なのか?」という質問をよくいただきます。結論から言うと、対策をしている企業ほど活用価値が大きいのがEPL保険の特徴です。
対策していても発生するケース
| ケース | リスクの性質 |
|---|---|
| 悪意のないマネジメント | 上司本人にハラスメントの自覚がない |
| 価値観の世代間ギャップ | 言動の受け止め方に差がある |
| 退職代行・弁護士経由 | 在職中に問題が表面化しないまま訴訟化 |
| 第三者からの請求 | 取引先や顧客との関係でのハラスメント |
ハラスメント対策をどれだけ徹底しても、リスクをゼロにすることは現実的に困難です。特に近年は「ハラスメント」という言葉の定着により、被害を訴えるハードルが下がっており、対策済みの企業でも請求を受ける可能性は残ります。
EPL保険の保険料相場と設計のポイント
EPL保険は業務災害総合保険の特約として加入する形が一般的なため、単独の保険料というよりは「業務災害総合保険+EPL特約」のセット料金で考えます。
保険料の目安
業務災害総合保険に EPL特約を付帯する場合の保険料は、企業規模・業種・補償額・従業員数によって変動します。中小企業の場合、業務災害総合保険全体で年間20万円台〜100万円程度の幅があり、EPL特約はそのうちの一部として組み込まれます。業種別の保険料水準は業務災害総合保険の保険料相場|業種別と中小企業の目安で詳しく解説しています。
| 補償設計 | 想定企業 |
|---|---|
| 基本パッケージ | 中小サービス業・事務系 |
| ハラスメント対応強化 | IT・コンサル等のホワイトカラー中心 |
| 大規模事業所向け | 製造業・建設業など多人数雇用 |
※具体的な保険料は保険会社・契約内容により異なります。
補償額の設計
EPL保険の補償額は、想定される賠償金額をベースに設定します。パワハラ・セクハラ訴訟の相場が数百万円〜1,000万円であることを踏まえ、補償額は1案件あたり1,000万円〜3,000万円程度を確保するのが一般的です。
複数の請求が同時期に発生する可能性も考慮すると、年間の支払限度額として5,000万円〜1億円程度を見込んでおくと安心感が高まります。
EPL保険が機能するシナリオ
EPL保険の効果を理解するため、実際のシナリオに即して整理します。
シナリオ1: 退職社員からの慰謝料請求
中堅IT企業の若手社員が「上司の言動でメンタル不調になった」として退職後に弁護士経由で慰謝料500万円を請求。会社は事実関係を調査するため弁護士に対応を依頼。最終的に和解金300万円+弁護士費用150万円で解決。EPL保険でこれらの費用がカバーされ、会社の財務負担はほぼゼロに抑えられた。
シナリオ2: 退職代行経由の残業代請求
サービス業のアルバイトスタッフが退職代行を利用して辞めた後、未払い残業代として80万円の内容証明が届く。少額のため会社が支払って終結したが、その後同時期に退職した複数のスタッフからも同様の請求が続き、累計で500万円規模に。EPL保険で残業代未払いに関する補償・対応費用がカバーされた。
関連リスクと併せて検討したい論点
EPL保険は単独で検討するよりも、関連する保険商品と併せて整理するとより総合的な備えになります。たとえば、業務災害そのものへの基本的な備えは政府労災で足りないケースと業務災害総合保険で詳しく解説しています。
過労死・過労自殺などメンタルヘルス起因の労災リスクへの備えは過労死リスクと経営者責任、役員個人を守るD&O保険のハラスメント対応とも補完関係にあります。
この記事のまとめ
- EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)は業務災害総合保険の特約として、人事労務トラブルによる賠償請求に備える保険
- 補償対象はパワハラ・セクハラ・不当解雇・差別・配置転換・長時間労働・残業代未払いなど雇用慣行全般
- 補償内容は損害賠償金・和解金・弁護士費用・訴訟対応費用の4本柱
- パワハラ・セクハラ訴訟の賠償相場は数百万円〜1,000万円が中心、退職後訴訟では逸失利益・未払い残業代が上乗せされ膨らむ傾向
- 退職代行経由の残業代請求事例も増加、内容証明から業務災害保険相談につながるケースも
- 免責は故意性・明らかな悪意・犯罪行為・加入前から進行していた問題
- ハラスメント対策をしている企業ほど、ゼロにできないリスクへの会社防衛策として活用価値が高い
よくある質問
EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)とはどのような保険ですか?
業務災害総合保険の特約として位置づけられる保険で、人事労務トラブルに伴う賠償請求を補償します。対象となるのはパワハラ・セクハラ・不当解雇・差別的取り扱い・配置転換トラブル・長時間労働など、雇用慣行に関わるトラブル全般です。
EPL保険ではどのような費用が補償されますか?
損害賠償金、和解金、弁護士費用、訴訟対応費用などが補償対象になります。会社が賠償責任を負った場合の支払いだけでなく、訴訟に至る前の交渉・対応にかかる費用までカバーできるのが特徴です。
パワハラ・セクハラ訴訟の賠償額はどのくらいが相場ですか?
数百万円〜1,000万円程度が中心的な相場です。退職後に訴訟化する場合、会社責任が確定するまでの期間に相当する逸失利益や未払い残業代が上乗せされることもあり、賠償額が膨らむケースもあります。
EPL保険で免責になるケースは何ですか?
故意性が強い行為、明らかな悪意による行動、犯罪行為、加入前から既に進行していた問題は免責・対象外になりやすい設計です。加入時には社内の人事・労務管理体制が整っているかを確認し、保険加入と同時に体制整備を進めることが重要とされています。
ハラスメント対策をしている企業もEPL保険に入る価値はありますか?
対策済みの企業ほど加入する価値があるといえます。ハラスメント対策をしていても、悪意のないマネジメントや退職代行・弁護士経由の請求で問題化することはあり、リスクをゼロにはできません。対策と保険の両輪で備えるのが現実的です。
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