業務災害総合保険とEPLの補償範囲|構造を解説
この記事のポイント
業務災害総合保険は従業員のケガを補償する主契約と、人事労務トラブルに備えるEPL特約で構成されます。主契約とEPL特約の補償対象を整理し、セット加入のメリット・保険料の考え方・免責事項まで体系的に理解できる構造解説です
業務災害総合保険は「主契約=従業員のケガ補償」+「EPL特約=人事労務トラブル補償」の二層構造で設計されています。性質の異なる2つのリスクを1つの保険でカバーできる仕組みで、中小企業の労務リスクを総合的に管理する商品として活用されています。

業務災害総合保険の二層構造
業務災害総合保険は、性質の異なる2種類のリスクを1つの商品でカバーする設計になっています。理解しやすくするために、商品の構造を主契約と特約に分けて整理します。
主契約:従業員のケガに関する補償
主契約の中心は、従業員が業務中の事故や病気により死亡・後遺障害・入院・通院した場合の補償です。政府労災では足りない部分を補う「上乗せ保険」の機能を果たします。
特約:人事労務トラブルに関する補償
代表的な特約がEPL保険(雇用慣行賠償責任保険)です。ハラスメント・不当解雇・差別など、雇用関係に伴うトラブルで会社が賠償請求を受けた場合の補償をカバーします。
| 補償カテゴリ | 主な対象 | 代表的なシナリオ |
|---|---|---|
| 主契約(ケガ補償) | 従業員本人・遺族 | 業務中の事故、過労による疾病 |
| EPL特約(労務補償) | 会社 | ハラスメント訴訟、不当解雇訴訟 |

1つの保険商品で従業員のケガと労務トラブルの両方をカバーできるんですね。それぞれ別の保険に分けて加入する方法もあるのでしょうか?
主契約の補償内容を整理する
主契約は従業員のケガに対する補償が中心ですが、実際にはいくつかの補償項目がパッケージ化されています。代表的な補償項目を整理します。
| 補償項目 | 内容 | 補償額の目安 |
|---|---|---|
| 死亡保険金 | 業務災害で死亡した場合の遺族への支払い | 1,000万〜3,000万円 |
| 後遺障害保険金 | 後遺障害が残った場合の補償 | 等級に応じて段階的に設定 |
| 入院日額 | 入院日数に応じた定額給付 | 日額数千円〜1万円程度 |
| 通院日額 | 通院日数に応じた定額給付 | 日額数千円程度 |
| 休業補償の上乗せ | 政府労災の80%補償の不足分20% | 給与の20%相当 |
入院日額・通院日額は、治療費の実費補填ではなく、交通費や日用品など被災した従業員が自由に使える定額給付として設計されています。被災者の生活負担を軽減するための位置づけです。
業務災害総合保険・EPL特約の検討は業務災害総合保険の専門スタッフへの相談はマネーサロンへからお問い合わせいただけます。
EPL特約が対象とする「雇用慣行」の範囲
EPL特約が補償する「雇用慣行」は、雇用関係のあらゆる場面でのトラブルを指します。具体的には次のような事案が対象になります。
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティハラスメント
- 不当解雇
- 差別的取り扱い(性別・年齢・国籍など)
- 配置転換・配属トラブル
- 長時間労働に関する請求
- 残業代未払いなど賃金をめぐる請求
これらのトラブルにより会社が賠償請求を受けた場合、EPL特約から損害賠償金・和解金・弁護士費用・訴訟対応費用が支払われます。実際に、退職した従業員から未払い残業代の請求を受け、慰謝料とあわせて雇用慣行賠償から支払われたケースもあるとのことです。ただし、未払い賃金そのものは本来会社が支払うべき労働債務であり、賠償金とは性質が異なるため、どこまで保険金の対象になるかは商品・約款によって扱いが分かれます。加入前に個別の約款で対象範囲を確認することをおすすめします。

雇用慣行といっても範囲が広いのですが、どのくらいの会社がEPL特約を付けているのでしょうか?
主契約とEPL特約の比較

主契約とEPL特約は、補償対象も保険金支払いの構造も異なります。両者を整理することで、自社にとってどちらが優先かを判断しやすくなります。
| 比較軸 | 主契約 | EPL特約 |
|---|---|---|
| 補償対象 | 従業員本人・遺族 | 会社(賠償責任) |
| 保険金支払い先 | 従業員・遺族 | 会社(被害者への支払いを補填) |
| 想定シナリオ | 業務中の事故・疾病 | ハラスメント・不当解雇 |
| 保険金額の単位 | 死亡1,000万〜3,000万円 | 1事案数百万〜1,000万円 |
| 訴訟費用 | 原則として含まない | 弁護士費用・訴訟対応費用含む |
主契約は「従業員が被災した場合の生活補償」、EPL特約は「会社が賠償請求を受けた場合の費用補填」と、補償の方向性が逆向きである点を理解しておくことが重要です。
セット加入時の保険料の考え方
主契約のみで加入するか、EPL特約も付帯するかによって、保険料の構造が変わります。具体的な保険料は保険会社・契約内容により異なりますが、考え方の基本を整理します。
主契約のみの場合
業種・売上高・従業員数・補償額に応じて年間保険料が決まります。中小企業の場合、年間20万円台〜100万円程度が一般的な相場です。
EPL特約を付帯する場合
主契約に加えてEPL特約分の保険料が上乗せされます。上乗せ額は補償額・想定請求件数・業種により異なりますが、ハラスメントリスクが高いとされる業種では相対的に高くなる傾向があります。
| 補償設計 | 保険料の傾向 |
|---|---|
| 主契約のみ・小規模 | 年20万円台〜 |
| 主契約のみ・中規模 | 年30万〜60万円 |
| 主契約+EPL特約 | 主契約に2〜3割程度の上乗せが目安 |
| 大規模・高補償額 | 年100万円超 |
※保険料は保険会社・契約内容により異なります。

EPL特約を付ける場合、保険料の上乗せ分を払う価値があるかどうかは、どう判断すればよいのでしょうか?
免責事項を正しく理解する
業務災害総合保険・EPL特約には、いくつかの免責事項があります。加入時に正しく理解しておくことで、いざという時の「保険が下りなかった」というトラブルを防げます。
主契約の主な免責
| 免責対象 | 内容 |
|---|---|
| 故意による負傷 | 自傷行為など故意で生じた負傷 |
| 犯罪行為 | 業務外の犯罪行為に伴う負傷 |
| 業務外の事由 | 業務との因果関係が認められない事由 |
EPL特約の主な免責
| 免責対象 | 内容 |
|---|---|
| 故意性が強い行為 | 加害者が意図的に行った行為 |
| 明らかな悪意 | 害意を持って行われた違法行為 |
| 犯罪行為 | 刑事事件に該当する行為 |
| 加入前から進行していた問題 | 加入時点で既に発生していたトラブル |
特に「加入前から進行していた問題」は実務上の注意ポイントです。すでに社内でトラブルが顕在化しており、当事者から請求が来る可能性が明確な状態でEPL特約に加入しても、その案件は補償対象外となるのが一般的です。
体制整備と保険加入はセットで進める
保険加入と同時に、社内の人事・労務管理体制を整備することが重要です。体制が著しく不十分だと、いざ事故が起きた際に保険会社から「会社の管理に過失があった」として保険金支払いに影響することがあります。
主契約に関連する体制整備
- 安全衛生委員会の設置・運営
- 危険業務の作業手順マニュアル整備
- 定期的な安全教育・研修
- 産業医契約・健康診断の徹底
EPL特約に関連する体制整備
- 就業規則・ハラスメント防止規程の整備
- ハラスメント相談窓口の設置
- 管理職向けハラスメント研修の定期実施
- 退職面談の実施・記録保管
体制整備はリスクそのものを下げる効果と、いざ事故が起きた際の保険金支払いを安定させる効果の両方があります。保険と体制整備は車の両輪として進めるのが現実的です。
補償対象者の範囲設計
業務災害総合保険・EPL特約の補償対象者は、契約時に範囲を設計します。正社員のみとするか、パート・アルバイト・派遣社員まで含めるかで保険料が変わります。
| 補償対象者の範囲 | 想定企業 | 保険料への影響 |
|---|---|---|
| 正社員のみ | 事務系中小企業 | 標準 |
| 正社員+パート・アルバイト | 飲食・小売・サービス業 | やや上乗せ |
| 正社員+パート・派遣社員 | 製造・建設・物流業 | 上乗せ幅大きい |
非正規雇用の比率が高い業種では、補償対象者を限定するか拡大するかが大きな判断ポイントになります。アルバイトの労災事故でも、正社員と同等の補償を求められた事例が増えているため、補償対象に含めておく方が安心感は高まります。補償額や対象範囲を含めた設計の考え方は業務災害総合保険の補償設計|中小企業の選び方で詳しく解説しています。
関連リスクと併せて検討したい論点
業務災害総合保険・EPL特約の検討は、関連する補償領域と併せて整理するとより総合的な備えになります。たとえば、政府労災との関係は政府労災で足りないケースと業務災害総合保険、ハラスメント訴訟の実際の賠償相場・退職代行経由の事例はEPL保険でパワハラ訴訟に備えるで詳しく解説しています。
過労死認定への備えは過労死リスクと経営者責任、保険料の業種別相場は業務災害総合保険の保険料相場を参照してください。
この記事のまとめ
- 業務災害総合保険は「主契約=従業員のケガ補償」と「EPL特約=人事労務トラブル補償」の二層構造
- 主契約の補償対象は従業員本人・遺族、EPL特約の補償対象は会社(賠償責任)と方向性が逆向き
- 主契約のみの保険料は年20万円台〜100万円、EPL特約付帯で2〜3割程度の上乗せが目安
- EPL特約の判断軸は社員数・業種特性・リスク認知度の3つ
- 免責事項は主契約・EPL特約それぞれにあり、特に「加入前から進行していた問題」は要注意
- 保険加入と社内体制整備はセットで進めるのが王道
- 補償対象者の範囲(正社員のみ/パート・アルバイト・派遣含む)は業種特性で設計
よくある質問
業務災害総合保険の主契約は何を補償しますか?
従業員の業務災害による死亡・後遺障害への補償が中心です。これに加えて、死亡時の遺族への保険金、入院・通院の日額補償、休業補償の不足20%分の補填などが付帯します。誰を補償対象に含めるかは契約内容で設計します。
EPL保険は業務災害総合保険とどう関係しますか?
EPL保険(雇用慣行賠償責任保険)は業務災害総合保険の特約として位置づけられる商品です。主契約は従業員のケガに関する補償、EPL特約はハラスメントや不当解雇など人事労務トラブルへの賠償補償と、補償対象が明確に分かれています。
主契約とEPL特約をセットで加入するメリットは何ですか?
従業員のケガと人事労務トラブルという、性質の異なる2つのリスクを1つの保険商品でまとめて備えられる点がメリットです。個別に保険を加入するよりも事務手続きが簡素で、保険会社との窓口も一本化できます。
主契約とEPL特約の保険料はどう決まりますか?
業種・売上高・従業員数・補償額・対象範囲などの組み合わせで決まります。主契約のみであれば年20万円台〜100万円程度、EPL特約を付帯するとその分が上乗せされる構造です。具体的な金額は保険会社・契約内容により異なります。
業務災害総合保険・EPL特約の免責事項には何がありますか?
故意性が強い行為、明らかな悪意による行動、犯罪行為、加入前から進行していた問題は免責になりやすい設計です。また、社内の人事・労務管理体制が著しくずさんだった場合も保険金支払いに影響することがあるため、加入と同時に体制整備を進めることが重要です。
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