保険の種類(しようしゃばいしょうせきにんほけん)

使用者賠償責任保険とは

一言でいうと

従業員が業務中のケガや病気をめぐって会社を訴え、会社が法律上の損害賠償責任を負った場合に、賠償金や訴訟費用を補償する保険です。政府労災では賄えない慰謝料や逸失利益などの高額賠償に備える目的で、安全配慮義務違反を問われた企業が活用します。

使用者賠償責任保険とは

使用者賠償責任保険とは、従業員が業務中のケガや病気(業務上の災害)によって身体に障害を負い、その従業員や遺族から会社が損害賠償を請求され、法律上の損害賠償責任を負った場合に、賠償金や問題解決のために要した費用を補償する保険です。

会社には、従業員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。これは労働契約法第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められた義務です。この義務を怠ったと判断されると、会社は従業員側から損害賠償を求められる立場に立たされます。使用者賠償責任保険は、こうした賠償リスクに備えるための保険です。

何を補償するのか

補償の中心になるのは、従業員やその遺族から訴えられた際に会社が支払う損害賠償金と、訴訟・示談に要する費用です。

具体的には次のような項目が対象になります。

  • 損害賠償金(慰謝料、逸失利益、休業損失など)
  • 賠償問題の解決にかかる費用(示談交渉に要した弁護士費用など)

特に慰謝料は、政府労災の給付では対象外となるため、自己負担になりやすい部分です。使用者賠償責任保険は、政府労災等の給付だけでは賄いきれない賠償金を補う役割を担います。

政府労災・法定外労災補償保険との違い

業務災害に関わる備えには、性質の異なる仕組みが複数あります。発動するタイミングと補償の対象が異なるため、整理して理解することが大切です。

制度・保険発動のきっかけ補償の対象
政府労災(労災保険)業務上の事故・病気が起きたら治療費、休業中の所得の一部など(公的・加入義務あり)
法定外労災補償保険業務上の事故が起きたら政府労災への上乗せとして会社が支払う見舞金・補償金
使用者賠償責任保険会社が訴えられ、賠償責任を負ったら賠償金(慰謝料・逸失利益など)、訴訟費用

ポイントは発動の条件です。政府労災や法定外労災補償保険は「事故が起きたら」給付が行われますが、使用者賠償責任保険は「会社が訴えられ、法律上の賠償責任を負ったら」発動します。

法定外労災補償保険は、会社があらかじめ定めた補償規程に基づき、従業員や遺族に支払う上乗せ給付をカバーするものです。一方、使用者賠償責任保険は、会社が法的に負う賠償責任そのものに対応する保険であり、両者は補償の目的が異なります。なお、これらをまとめて1契約でカバーするパッケージ型の保険として、業務災害総合保険があります。

必要性

使用者賠償責任保険が重視される背景には、安全配慮義務違反による高額賠償の存在があります。

代表的な判例として電通事件があります。慢性的な長時間労働の末にうつ病を発症し自殺した新入社員について、最高裁は「使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判示し、会社の責任を認めました。この事案は最終的に約1億6,800万円で和解が成立しています。

業務上の災害に関する賠償額は、ケースによっては1億円を超えることもあり得ます。政府労災の給付だけでは到底足りないこうした高額賠償が現実に発生していることから、賠償による経営への影響を軽減する手段として、加入する企業が増えています。

注意点

加入を検討する際は、自社の事業内容や職場環境から想定されるリスクを洗い出すことが重要です。業種や作業内容によって、起こりうる事故や賠償リスクは大きく異なります。

また、企業を取り巻くリスクのすべてを1つの保険だけでカバーすることは困難です。使用者賠償責任保険はあくまで「賠償責任」に備える保険であり、上乗せ給付を目的とする法定外労災補償保険など、他の備えと組み合わせて総合的に検討することが望まれます。補償の対象範囲や免責事項は商品ごとに異なるため、契約前に補償内容をよく確認しておく必要があります。

関連用語

  • 安全配慮義務
  • 法定外労災補償保険
  • 業務災害総合保険
  • 政府労災(労災保険)

参考文献

  1. 日本損害保険協会 - 使用者賠償責任保険とは?補償内容や必要性、加入時のポイントを解説 - 使用者賠償責任保険の定義、補償内容、政府労災・法定外補償保険との違い、必要性、加入時の注意点
  2. 厚生労働省 - 労働契約法(第5条 安全配慮義務) - 安全配慮義務を定めた労働契約法第5条の条文
  3. 厚生労働省 こころの耳 - うつ病による過労自殺について使用者の安全配慮義務違反を認めた事例(電通事件) - 安全配慮義務違反による高額賠償の判例と最高裁の判示内容
  4. 損害保険ジャパン株式会社 - 賠償責任の保険 - 企業の事業活動に関わる賠償責任保険の体系と補償の考え方