基本用語(はけんさきせきにん)

派遣先責任とは

一言でいうと

派遣社員の労災では、労災保険の加入・保険料負担・補償手続きは雇用主である派遣元が担い、作業現場の安全管理や労働安全衛生法上の措置義務は指揮命令する派遣先が負います。一部の項目は派遣先と派遣元の双方が責任を負う構造で、派遣先も安全配慮義務違反を問われる場合があります。

派遣先責任とは

派遣先責任とは、派遣社員が業務中にケガや病気を負ったとき、派遣社員を受け入れて指揮命令している派遣先(受入企業)が負う責任のことです。派遣社員には雇用主である派遣元(派遣会社)と、実際の作業現場を管理する派遣先という2つの企業が関わるため、労災に関する責任も両者で分担される仕組みになっています。

整理すると、労災保険への加入・保険料の負担・補償の手続きは雇用主である派遣元が担い、作業現場での安全管理や労働安全衛生法上の措置義務は現場を指揮命令する派遣先が負います。つまり「保険の手続き・補償は派遣元、現場の安全管理は派遣先」と役割が分かれているのが基本構造です。

派遣元と派遣先の責任分担

責任が分かれる理由は、労働者派遣の特殊な雇用関係にあります。派遣社員は派遣元と労働契約を結ぶ一方、業務上の指揮命令は派遣先から受けます。そのため、雇用契約を前提とする項目は派遣元が、現場の状況に左右される項目は派遣先が責任を負う形で整理されています。

項目主に責任を負う側
労災保険の加入・保険料負担派遣元
労災保険の給付(補償)手続き派遣元
作業現場の危険防止措置派遣先
危険有害業務の特別教育・資格確認派遣先
一般健康診断派遣元
特殊健康診断(有害業務)派遣先
雇入れ時の安全衛生教育派遣元(派遣先が情報提供で協力)
労働者死傷病報告の提出派遣先・派遣元の双方

労災保険について派遣元が加入主体となるのは、派遣元が派遣社員の賃金を支払う雇用主であり、災害補償責任を負う立場にあるためです(厚生労働省の整理による)。

一方で、機械による危険の防止、危険有害業務に就かせる際の特別教育や資格確認、有害業務の特殊健康診断などは、現場を管理する派遣先の役割とされています。さらに、安全衛生教育のように派遣元が主体となりつつ派遣先の協力が必要な項目や、労働者死傷病報告のように派遣先・派遣元の双方に提出義務がある項目もあり、責任は完全に二分されるのではなく、項目ごとに分担・連携されている点が重要です。

派遣先が安全配慮義務違反を問われる場面

派遣先は「自社が雇用した社員ではない」としても、現場の安全管理を怠れば責任を免れません。派遣社員を指揮命令して働かせている以上、安全な作業環境を整える義務があるためです。

たとえば、安全装置のない機械で危険な作業をさせたり、必要な安全教育や保護具の支給を怠ったりした結果、派遣社員がケガをした場合、派遣先が損害賠償を求められることがあります。労災保険は治療費や休業補償の一部をカバーしますが、慰謝料や逸失利益(将来得られたはずの収入)は対象外です。これらは民事上の損害賠償として請求され、賠償額が高額になるケースも少なくありません。

実務上の注意点

派遣社員を受け入れる企業がまず押さえておきたいのは、「うちの社員ではないから関係ない」という考え方は通用しないという点です。労災保険の手続きこそ派遣元が行いますが、現場で事故が起きないようにする責任は派遣先にあり、安全配慮義務違反が認められれば賠償リスクを負います。

具体的には、危険有害業務に就かせる際の資格確認、現場に即した危険防止措置、立入禁止場所の周知などを派遣先が適切に行う必要があります。また、労働災害が発生した場合は、派遣先が原因を調査して再発防止策を講じ、労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署に提出する義務もあります(写しを派遣元へ送付)。

派遣先としての備え

責任分担を踏まえると、派遣先は次の2点を意識しておくとよいでしょう。

ひとつは、派遣元と日常的に連絡調整を行い、安全衛生教育の実施状況や健康診断の結果などを相互に確認すること。もうひとつは、安全配慮義務違反による損害賠償リスクに備え、労災保険では補えない部分を補完する民間保険を検討することです。労災の上乗せ補償や使用者賠償責任を補償する保険は、派遣社員も含めた現場の万一に備える手段となります。

関連用語

  • 安全配慮義務
  • 労災保険
  • 使用者賠償責任保険
  • 労働者死傷病報告

参考文献

  1. 厚生労働省 - 労働者派遣事業に対する労働者災害補償保険の適用等について - 労災保険の適用事業が派遣元事業主となる根拠と災害補償責任の所在
  2. 厚生労働省 - 派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために(派遣先事業者向け) - 派遣先が講ずべき危険防止措置・特別教育・特殊健康診断・労働者死傷病報告等の責任区分
  3. 厚生労働省 - 派遣労働者の安全衛生対策について - 派遣元・派遣先の責任区分と相互連携の考え方
  4. 日本損害保険協会 - 使用者賠償責任保険とは - 安全配慮義務と労災保険で補償されない損害(慰謝料・逸失利益)への備え