雇用慣行賠償責任保険(EPL保険)とは
一言でいうと
雇用慣行賠償責任保険(EPL=Employment Practices Liability)は、パワハラ・セクハラ・不当解雇など職場の人事トラブルで従業員や元従業員から損害賠償を請求された際に、会社が負う賠償金と争訟費用を補償する保険です。業務上のケガを対象とする労災系保険とは守備範囲が異なります。
雇用慣行賠償責任保険(EPL保険)とは
雇用慣行賠償責任保険とは、パワハラ・セクハラといったハラスメント、不当解雇、賃金差別、退職強要などの「雇用に関するトラブル」をきっかけに、従業員や元従業員から会社が損害賠償を請求された場合に、会社が負担する賠償金や争訟費用を補償する保険です。英語の Employment Practices Liability(雇用慣行に関する賠償責任)の頭文字をとって、EPL保険とも呼ばれます。
この保険が対象とするのは、職場の人間関係や人事上の判断に起因するリスクです。採用から退職までの一連の雇用プロセスで生じうるトラブルを幅広くカバーする点に特徴があります。単独の保険として用意されているほか、企業向けの総合保険(業務災害総合保険や事業活動総合保険など)に特約として付帯する形で提供されることも多くあります。
補償される「雇用慣行」の範囲
EPL保険が想定する「雇用慣行」のトラブルには、たとえば次のようなものがあります。
- パワーハラスメント(職場での優越的な関係を背景とした言動)
- セクシュアルハラスメント
- 不当解雇・解雇をめぐる紛争
- 賃金や処遇に関する差別
- 退職の強要
これらに起因して従業員や元従業員、採用に応募した人などから損害賠償を請求された場合に、会社が負う法律上の賠償金が補償されます。あわせて、訴訟・調停・和解・仲裁といった争訟に対応するために支出した弁護士費用などの争訟費用も補償されるのが一般的です。
労災系の保険との守備範囲の違い
EPL保険と混同されやすいのが、使用者賠償責任保険などの労災系の保険です。どちらも「従業員からの損害賠償請求に備える」という点では共通していますが、守備範囲が明確に異なります。
| 比較項目 | 雇用慣行賠償責任保険(EPL) | 使用者賠償責任保険 |
|---|---|---|
| 対象となるトラブル | ハラスメント・不当解雇など雇用上のトラブル | 業務上のケガ・病気(労災) |
| 起因するリスク | 人事判断・職場の人間関係 | 業務に伴う身体障害 |
| 主な補償 | 賠償金・争訟費用 | 賠償金・訴訟費用 |
日本損害保険協会の解説でも、従業員からの損害賠償が「身体障害」に係るものか、「雇用トラブル」に係るものかで対応する保険が異なると整理されています。業務中のケガや病気をめぐる労災訴訟は使用者賠償責任保険が、職場の人間関係や人事判断をめぐるトラブルはEPL保険が、それぞれ受け持つイメージです。
注目される背景
EPL保険が注目される背景には、ハラスメント防止の法制化があります。厚生労働省によると、職場のパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが、大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から事業主の義務となりました。セクシュアルハラスメントについても、男女雇用機会均等法により従来から防止措置が事業主に義務づけられています。
こうした法整備に加えて、働く人の権利意識の高まりもあり、雇用トラブルが訴訟に発展するケースへの企業の備えとして、EPL保険への関心が広がっています。
注意点
EPL保険を検討する際は、補償の対象外となる事由(免責)の確認が欠かせません。一般論として、加害者となった役員や従業員の故意による行為や、法令違反であることを知りながら行った行為などは、補償の対象外とされることがあります。どこまでが補償され、何が免責になるかは保険会社や商品、特約の内容によって異なるため、加入前に約款やパンフレットで具体的な補償範囲を確認することが重要です。
関連用語
- 使用者賠償責任保険
- 業務災害総合保険
- 賠償責任保険
参考文献
- 日本損害保険協会 企業のための保険ナビ - 使用者賠償責任保険とは - 使用者賠償責任保険と雇用慣行賠償責任保険(EPL)の守備範囲の違い
- 厚生労働省 - 職場におけるハラスメントの防止のために - パワハラ・セクハラ防止措置の法制化と施行時期
- 損害保険ジャパン株式会社 - ビジネスマスター・プラス(事業活動総合保険) - 雇用慣行賠償責任補償特約による不当解雇等の補償
